紅色舞姫

□第一章・弐
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まんまと小十郎を出し抜いて城を抜け出した政宗はふらりと城下を散策していた。

例の荒れ地にも足を運んでみた、勿論先に向かわせた成実と鉢合わせしないように、だ。
しかし生憎手掛かりは何も掴めず、せめてそれらしい人物の噂だけでも、と町までやって来たのだが、何一つ手掛かりは掴めないまま時間ばかりが過ぎていく。

「ま…簡単に捕まるもんじゃねぇとは思っていたがな…」

一人呟きながら政宗は一件の茶屋に目を止めた。
そこは以前から城下でなかなか人気があるという店で、よく成実が城を抜け出しては甘味を買ってきていた。

「break offとするか…」

「お兄ちゃんも休憩?」

異国語で呟いて店の方へと足を向けると、不意に足元から声がした。
驚いて視線を下げると、すぐ側に前掛けをした五、六歳くらいの小さな女の子がちょこんと立っていた。

「休憩だったらうちのお店に寄って行ってね!」

ニコニコと笑うと女の子は政宗が入ろうとしていた店を指差した。

「ふーん、嬢ちゃんあの店の子か、手伝いか?」

「うん!八重っていうんだよ!!」

女の子と視線を合わせるために政宗が腰を屈めると嬉しそうにそう答えた。

「その年で親孝行とは偉いじゃねぇか、今からアンタのとこの店に行こうとしてたんだ」

「ほんと?じゃあ早く行こう!うちのお菓子は美味しいから早く行かないと無くなっちゃうよ!」

「Ha!そいつは大変だ」

早く早く、と八重に急かされて店内に入ると、確かに二十席ほどある席の殆どが埋まっていた。

「お兄ちゃん、ここ空いてるよ」

「Thanks」

「さん…?」

思わず異国語で返すと八重が不思議そうに首を傾げた。

「ああ、異国の言葉で『ありがとう』って意味だ」

「へぇー、お兄ちゃん異国に行った事があるの?」

興味津々といった風に身を乗り出す八重に政宗は苦笑した。

「まさか、行ってみてぇとは思うが小十…ah-…色々と小煩い奴がいるからな」

もし小十郎が聞いたら即座に雷が落ちそうな台詞である。

「でも異国の言葉が使えるなんて凄いねー、お姉ちゃんとどっちが凄いかな」

「姉ちゃんがいるのか?」

「あ、八重のお姉ちゃんじゃないよ、欲しかったけど…そうじゃなくてここで働いてるの」

物知りなんだよー、と八重は我が事のように自慢する。

「Hum…けど多分、その姉ちゃんより俺の方が凄いぜ」

「えー?」

何てったって奥州筆頭だからな、と口には出さずにニヤリと笑う政宗とは真逆に八重はむうっと頬を膨らませた。



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