紅色舞姫
□第一章・捌
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「馬鹿な!その様なよまい言、真に受ける気か!!」
「……よまい言だと思ってる割には顔色が悪いじゃねぇか」
政宗の言葉に畠山は言葉に狂ったように漆姫を指して怒鳴った。
「……突然いわれのない罪をなすり付けられれば動転もしよう、そもそも、何故このような場所に女がいるのだ!その女のほうが怪しいだろう!!その女が私を嵌めようと……!!」
「その口を閉じなさい!!」
再び発せられた怒号に、畠山は今度こそ完全に黙った、その視線は平素より鋭く細められた漆姫の目を凝視している。
「そんな、馬鹿な……」
「……ようやく気付いたんですね」
冷たい声色で言い放つ漆姫から、その手に握られた刀へ視線を移し、更に何かを探すように視線をさ迷わせる畠山に応じてか、漆姫は外套の端を掴んでその内側を畠山の眼前にさらけ出した。
そこに描かれていたのは真っ赤な大輪の椿の花、黒地の布に咲く鮮やかなその色は戦場には不釣り合いな美しさを放っている。
「鍔無しの刀と緋椿の家紋、……あとは十数年前あなたが化け物と呼んだ私自身、これ以上に私を証明する物が必要ですか?」
畠山の顔が驚愕に歪み、そのままがっくりと地面に膝をつく。
「何故生きているのだ……月家の姫が、何故!!」
月家の姫、その言葉に政宗と小十郎もはっとして漆姫を見た。
月家は、かつてこの地を治めていた家柄、件の先代領主の家柄である。
「あなたは奪い過ぎた、遺された人の嘆きも知らずに……報いは、受けて下さい」
静かに告げた漆姫の肩を、政宗が軽く叩いた。
「アンタが手に掛ける価値は無い男だ……下がってろ」
「……はい」
諭すように、悼むように囁くと、政宗は収めていた刀を抜き、躊躇う事なくそれを振るった。
「手前が奪った物も、俺が手前から奪った物も、同じ物だ……その重みをもう少し理解しやがれ」
既に事切れた畠山に向かってそう呟くと政宗は再び刀を鞘に収めた。
ここに畠山氏の謀略は彼の死をもって終結した。
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