紅色舞姫

□第一章・捌
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「ただ今戻りました!」

「Ya!情況は?」

三人が待つ部屋に転がり込むようにして入って来た漆姫は弾む息を押さえ込んで近隣の村で見た一連の出来事を告げた。

「帰りに他の村の様子も見てきましたが、どこも酷い有様でした」

「……ご苦労だった」

話を聞き終えると、政宗は刀を握りしめてゆっくりと立ち上がった。

「政宗様」

それを訝しんでか、声をかけた小十郎を、政宗は頭を動かさず視線だけで見下ろした、そこには確かな怒気が含まれていた。

「漆姫の話じゃ民達は今日明日にでもまた一揆を起こす、これ以上被害が出る前に畠山の奴を締め上げる!」

「はっ」

気色ばむ政宗の後に続いて小十郎が立ち上がった瞬間、突如、それまで開いていた部屋の雨戸が一斉に降りた。

「……なっ!?」

「これは……!!」

うろたえる四人に追い打ちをかけるように外からは火の爆ぜる音が聞こえる。

「Shit!!あの野郎盗み聞きしてやがった!!」

「政宗様、お下がりください!!成実!突破するぞ!!」

「任せろ!!」

ガンッ!!と小十郎と成実が戸に当て身を食らわす、しかし、戸は揺れはするものの依然として外れはしない。

「畠山の奴……!初めから政宗様を嵌めるつもりだったのか!!」

「落ち着けよ小十郎!今はここから出るのが先だ!!」

そうこうしている間に戸の隙間から煙が入り込んでくる、火の爆ぜる音も先程より大きい。

「っざけんなよ!!!」

悪態と共に成実が彼の武器である棍を戸に叩き付ける、炎に焼かれ脆くなっていた戸は、みし、と嫌な音をたてて弾け飛んだ。

「ハッ!この俺を閉じ込めるつもりなら詰めが甘いんだよ!!」

残った木の破片を蹴り飛ばしながら成実が外に飛び出す、そのあとに続いて小十郎、政宗、漆姫も外に出る。
改めてみれば炎は政宗達がいた所からだけでなく、城のあらゆる場所で上がっている。

「どういうことだ……伊達の兵がいねぇ!?」

一足先に辺りを調べていた成実の言葉に小十郎の顔が険しくなる。

「それだけじゃねぇ、これだけ火が出てるってのに誰ひとり様子を見にこねぇ……」

「そんな阿呆な!城が燃えてるんだぞ!?畠山の連中、本気で何考えてんだ!!」

「この城は……」

信じられないといったように声を上げる成実に応えてか、燃え上がる城を見上げていた漆姫がうわ言のように呟く。

「この城は、先代の領主の城……だから、この城がなくなっても畠山は意に介さない……」

「何だと……!?なら、奴は城を捨てたってのか!!」

「で、畠山の奴はどこに行ったんだよ!?」

成実の叫びに、政宗の顔が青くなる。

「漆姫!村人の寄り合いがあってるのはどこだ!?」

「え?それならここから西北に進んで最初にある村……」

言いかけて漆姫はまさか、と言葉を切った、小十郎と成実も政宗の言わんとすることを悟って息を飲む。

「あの野郎、村を襲う気だ!!」



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