紅色舞姫
□第一章・捌
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黒煙の上る城を見上げて、最北端の領主である畠山はうっすらと笑みを浮かべた。
いくら独眼竜と謳われる伊達政宗も炎に撒かれては無事では済むまい。
そして自らの軍に混じる青い集団を見下ろす。
『伊達政宗は我らの突破口を開くために自ら先駆けとなった』、そう言っただけで何も疑わず自分に付き従う彼等を愚かだと思う、それだけの信頼を寄せられるというのは伊達政宗という男の人望の成せる技なのかもしれないが、何も知らずにここにいる兵達は滑稽としか言いようがない。
(ようやくだ……)
十年ほど前、戦で滅んだ前領主からこの地方の全権を奪って富と力を蓄えた、次に奪うのは奥州全土、それを考えれば自然と笑みも浮かぶというもだ。
(ようやく、私が力を手に入れる)
後は伊達の兵に目障りな一揆衆を皆殺しにさせ、疲弊した奴らを自軍の兵が殺す、残った諸領主共には伊達政宗は一揆衆に殺されたと言えば良い。
そうすれば奴らは農民の粛正を徹底しだす、奴らの視線が下に向いている間に、後は簡単に奥州王の座にのし上がれる。
進軍の合図を送るべく、彼は側に控える兵に視線をやる、だが、彼の視界に予想だにしていなかった光景が映った。
「伊達、政宗……!」
対面の斜面を真っ直ぐに駆け降りてくるのは、青い陣羽織に弦月の前立、ここにいるはずのない男だった。
「何故、……何故っ!!」
何故逃げ出せた、運よく建物から出ることは出来ても城の出入口は全て塞いだ、それなのに。
全身から冷や汗が吹き出す、思考の整理が追い付かないうちに政宗は畠山勢の兵を蹴散らし、真っ直ぐ本陣に向かってくる。
「よォ……随分と舐めた真似してくれたじゃねぇか」
傍らにいた兵を斬り払い、凄絶な笑みを浮かべた政宗は血糊の付いた刀を畠山に向けた。
「何故……何故逃げ出せた……」
「Ha、道が塞がってんなら開けば良いだけの話だ」
事もなげに言い放つ政宗に、言い知れぬ恐怖を感じた畠山はじり、と後ずさる。
見誤ったというのか、機を、相手を、己の力量を。
「アンタは、命を蔑ろにしすぎた、自分がそうされても文句は言えねぇぜ」
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