紅色舞姫
□第一章・捌
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「変な姉ちゃんだベ」
「あはは、ごめんごめん」
しばらくして落ち着いた漆姫は気まずそうに頬をかいた。
「そうだ、おら達もうすぐ悪いお侍をやっつけに行くベさ、だから姉ちゃん、この近くにいると危ねえだよ」
「悪い、お侍?……さっきも言ってたけどそれって……」
「そうだ!この道を真っ直ぐ下ったらおら達の村があるからそこに隠れると良いだよ」
「そういやいつきちゃん、今日は隣村との寄り合いがあるんでなかったか?」
男の声にいつきはしまった、というように両手で顔を押さえた。
「いっけねぇ!すっかり忘れてただよ!おら、ひとっ走り隣村まで行ってくっから二人とも姉ちゃんを送ってやってくんろ!!」
言うが早いかいつきは槌を担ぎ直すと一目散に駆け出していった。
「そんじゃ、おら達も村さ帰るだよ」
「あ、すみません、私行かなきゃいけないところがあるので……」
「んな事言ったって娘っ子一人じゃ危ねぇべ?」
「大丈夫です、……それより、いつきちゃん……」
いつきが消えた方を見て漆姫は不安げに顔を歪めた、あんな小さな子が武器を振りかざしているのは、正直心が痛い。
「生まれてくる時代が悪かっただよ、前の領主様ん時はこんな事なかっただ」
切なげに肩を落とす男に漆姫はふと視線を向けた。
「前の、領主様?」
「んだ、今の領主様は前の領主様が死んじまったから来ただよ」
「前の領主様は戦で死んじまったけど、良いお人だったベさ」
「そう、ですか……」
二人の様子を見ると前の領主が少なからず慕われていたことが分かる、漆姫は少しだけ目を伏せて、そして出来るだけ明るく笑ってみせた。
「大丈夫ですよ、いつきちゃんも頑張ってるし……きっと良くなりますから」
「そ、そうだよな!いつきちゃんみてぇな小さくてめんこい子が頑張ってんだ!!」
「おら達ももっと頑張らねぇと!!」
「そうですよ!……じゃあ、私、そろそろ行きますね」
この事態を、一揆が起こるより早く政宗に伝えねばと漆姫はもと来た道を足早に駆け戻った。
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