紅色舞姫
□第一章・伍
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「おい、少しは人の話を聞け、コイツは…」
二人分の軽蔑の眼差しを受けながら政宗は盛大に舌打ちをすると担いでいる少女を指差した。
「政宗様ッ!!」
政宗が事情を説明しようと口を開いた瞬間、今度は廊下の反対側から怒声が響いた。
「小十郎?」
「…兵達が騒ぎ立てるものだから様子を見に来てみれば…何をしているんですか!!」
「Calm down(落ち着け).だからそれを今から言おうとしてたんだ」
次から次に自分を責める三人にうんざりしながら政宗は担いでいる女とは別に持っていた刀を突き出した。
「テメェ等も十二分に聞き覚えがあるだろ?俺達が追いかけ回していた例の刀だ」
「うお!マジだ!鍔のない刀!!どこで見つけたんだよ!?」
「……?その刀は…」
興奮を抑えきれず、興味津々といった様子で刀を見つめている成実と、ほんの少し眉間にシワを寄せた綱元を押し退けて小十郎が咳ばらいをする。
「今は例の者の話はしていません、その担いでいる娘の話を……」
「ああ、コイツの話をしてるんだ」
小十郎の言葉を遮って、政宗は妖しげに口端を吊り上げた。
「この刀を持って、大の男数人相手に大立ち回り、…察しはつくか?」
「まさか…っ、この娘が!?」
「って、なーんか見覚えがあると思ったら、よく見たらこの子漆姫じゃん!」
「That's right(その通り)!」
狼狽する二人の前で政宗は得意げに親指を立ててみせた。
「取り敢えずはその方…漆姫殿でしたね、そろそろ降ろして差し上げたらどうですか?彼女にももう逃げる気はなさそうですから、色々と込み入った話になりそうですし、一先ずは部屋に行きましょう」
唯一、落ち着いている綱元はずっと黙っている漆姫の顔を覗き込みながらそう言った。
「貴女もその方が良いでしょう?流石に体勢では苦しいでしょう、…と、言うことで移動しましょう」
「………」
その提案に異を唱えるものはいなかった。
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