紅色舞姫

□第一章・壱
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「ガキだよ、多分まだ十五、六の細っけぇガキ」

「Ah?んなガキに、…一人か?」

政宗の言葉に男は少しむっとしたようだが開き直ったのかその人物について話始めた。

「昨日の晩に村外れですれ違ったんだよ、ガキのくせに中々良い刀を持ってやがったから分取ってやろうとしたら」

この様だ、と男は自分も含め縛られている仲間達をあごで指した。

「政宗様、おそらく他の件もそいつが…」

「ああ…で、どんな奴だったんだ?」

「知らねぇよ」

「……は?」

予想外の、しかもあまりにあっさりとした男の返事に二人は思わず絶句した。

「手前…あんまりなめた口きくと…」

「Stop!落ち着け小十郎!!」

政宗は慌てて青筋を浮かべて男の胸倉を掴んだ小十郎を止めた。
小十郎本人もはっと我に返ってばつが悪そうに顔をしかめた。

「知らせねぇって訳はねぇだろ、…顔とか見ただろ?」

小十郎の問いに男が口ごもった。

「知らねぇというよりは分からねぇんだよ、そいつ妙な覆面みたいなモンしてやがったから」

着ている物もぶかぶかではっきりとした体型は解らなかったらしいがそれでも細い事は解ったからガキだと思ったのだと男は言う。

そこまで男が話すと、その後ろの男があ、と口を開いた。

「頭ァ、そういえばあのガキの外套の模様、あれ家紋か何かじゃねぇですか?」

「阿呆、あんな紋を家紋にするような家がある訳ねぇだろ」

野盗達のやり取りを聞きながら、政宗はあごに手をあてた。

「It's a stranger(妙な奴だな)…」

十五、六の少年がたった一人で三十人近い数の野盗を相手にしたという、これは中々興味深い話だ。

「政宗様、どうなさいますか?」

「Ah-hu?どうするもこうするもねぇ、…賊退治してくれてんだ、礼をするしかねぇだろ」

いろんな意味でな、と付け加えて政宗は楽しそうに口の端を吊り上げた。

城から抜け出して一暴れできる機会をことごとく横から奪われているのだ、その『お礼』もきっちり返さないといけないだろう。

「帰るぞ小十郎!…それから成実と綱元を呼んでおけ!!」

そう部下に命じると政宗は城へと手綱をとった。



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