紅色舞姫
□第一章・廿
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「つーわけで!」
トン、と成実は彼の武器である棍を地面に打ち付けた。
「さっさと運んでさっさと売るぜー!…漆姫は台帳の計算な」
ぽい、と分厚い本を数札渡されてよろめきながらも漆姫はそれに頷いた。
「あとはー、東側の堤防が崩れかけてたな、本格的な修理はまだできねぇけど応急処置くらいしとくかー」
「あのー成実様、ちょっと良いっスか?」
「あん?」
遠慮がちに手を挙げた兵はちら、と視線を動かした。
「えーっと、そこの嬢ちゃんはどこの誰で?」
妙に歯切れの悪い物言いに台帳を読み耽っていた漆姫が視線を上げると兵達が不思議そうな顔をそちらに向けていた。
「え……」
その問いに一番きょとんとしたのは漆姫だった。
今回の件に従軍してから彼らとは結構交流が増えているのだ、それなのに何故こんなに大勢から不思議そうな視線を受けるのだろうか。
「……お前等、あんなに弟分みたいなノリで可愛がってたクロを忘れちまうとは薄情な奴だなーオイ」
信じられんとばかりに言い放った台詞に、本人以外が気が付いた。
「く、クロぉ!?」
誰かの絶叫を皮切りに辺りが一気に騒がしくなる。
「ま、マジだ、よく見たら外套も同じじゃねぇか!」
「お、俺、こないだ頭どついちまった!!」
「馬鹿!何やってんだよお前!!」
「仕方ねぇだろ!まさかクロが女なんて思うわけ…」
「あ、あの……」
大混乱の中で漆姫が控え目に声を上げた。
呆れた話だが、成実があまりに普段通りに接してくるものだから漆姫自身もその事をすっかり忘れていたのだ。
「事情があったとはいえ黙っていてごめんなさい、本当の名前は漆姫といいます、……あの、改めてよろしくお願いします」
怖ず怖ずと頭を下げた漆姫の前で兵達は寸分違わぬ動作で手を額にあてた。
「イエッサー!!!」
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