紅色舞姫

□第一章・玖
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まだ煙が燻るものの、火の消えた最北端の城、庭先の広場に張られた天幕の中で政宗は正面に座る漆姫を見つめた。
まるで彼女が探し人であることが分かった日の再現のようだと思った、ただ、あの時とは違いここは屋外で今回の出陣に随伴しなかった綱元の姿はない。

「私は」

誰に促される事なく、沈黙を破って漆姫が口を開いた。
その口調もやはりあの夜のようにしっかりしたものだった。

「この地の領主であった月氏の最後の頭首、それが私の父です、ただ私は父の正室の子ではなく側室の娘なのですが」

「先代の月氏、か」

「だが…月氏はあの……以前起きた戦で途絶えたはずだが」

あえて『謀反』ではなく『戦』という言葉を使ったのは、漆姫が語った真実を踏まえての小十郎なりの配慮なのだろう。

「はい、城にいた者は全て、女子供関わらず殺されました」

「そう、聞いている……」

「あ、そんな顔なさらないで下さい」

それも後にこの城を乗っ取った畠山の口封じのための策だったのだろう、だが漆姫は生きている。
側室の子、まして娘といえど月氏の姫である漆姫は真っ先にその対象になるはずだ、現に畠山は漆姫の事を知っていた。

「私、人にはほとんど知られずに育ったんです、城の中の与えられた部屋から殆ど出てこなかったので」

「知られていなかった?側室の子とはいえ領主の娘だ、そんなはずはねぇだろ」

「そうなんですけど…でも皆さん、知らなかったでしょう?」

と、漆姫は困ったように眉を下げた。
言葉に詰まった政宗が小十郎と成実に視線を送ったが、二人も揃って首を振った。

「私の母はこの近くの神社の巫女で父が見初めてその際に還俗したのだと聞いています、でも正室である北の方は私達母子を疎ましく思っていたようで」

「確か…月氏の北の方には子がなかったと……」

「あれ?じゃあ月家ってもう漆姫しか残ってないのか?」

「そうなります、北の方は母と違い武家の方でしたから、それが余計に気に障ったのかと」

口に出してから、しまった、と顔をしかめた成実から少しだけ目を伏せて、漆姫は続きを話した。

「父は優しい方でしたから…子のない北の方のお気持ちを汲んで、なるべく私の事を城の外に漏らさないようにしていました……あ、蔑ろにされていたというわけではないですよ?」



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