物語-弐
□『 結婚しましょう 』
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「短刀直入に申し上げます。薫さん、結婚してください。」
居間には弥彦も座り、いつの間にか左之助も座っている。
男の名は櫻井直助。
最近まで外国に学問を学びにいて、に生まれたのも外国と言うらしい。
外の馬車を見る限り、裕福な暮らしなのだろう。
「あの時一目見て、薫さん以上に美しい女性はいないと思いました。優しく温かい笑顔に雨に濡れていることなど忘れました。」
歯がゆい台詞を男は真顔で話していく。
薫殿はポカーンと口が開いている。
「もう一度逢いたいと思いずっと探していました。評判もよく、とても女性らしいと聞きました。薫さん以上の方などもういません。
私は結婚をするために日本に帰ってきました。
貴女と結婚したいです。」
そう男が笑顔で言う。
薫殿は顔を赤くして、放心状態。
拙者が横からつつくと、薫殿はハッとして話し出す。
「私は神谷道場があるからお嫁には行けません。父がいない今はここを守るのが私の役目です。」
「それなら心配いりません。私がここに来ればいいだけです。」
「それに!私は剣術ばかりで女性らしいと言う言葉に欠けます!」
「女性らしいと言うのは見かけだけではありません。」
「あんた金持ちだろ?だったら周りにもっとお嬢さまみたいのがいるんじゃねえか?」
「嬢ちゃんの料理は不味いしよ。」
「ちょっと!」
「私の周りの女性は我慢や努力を知らず、魅力を感じません。薫さんこそが魅力的な女性。」
そう男が真顔で言う。
「また来てもいいですか?」
「はい。」
「薫殿?!」
「薫?!」
「嬢ちゃん?!」
拙者達、男の声が重なる。
櫻井は薫殿に微笑み帰って行った。
「いったいどういうつもりでござるか?」
「まぁ、いいじゃない。来たいって言うんだから。」
薫殿は上機嫌で言う。
「それでは期待を持たせるだけでござる。」
「次断ればいいじゃない。」
そう笑顔で言って、茶を入れ直すために台所に消えて行った。
「女は本当に甘い言葉に弱いねぇ。」
「あんなこと真剣に言う奴なんて気持ち悪ぃよ。」
「そう言いにくいことをサラッと言っちまう奴に女は弱いんだよ。お子様には早いか。」
「うるせぇ!」
弥彦が左之を殴ろうとするがそれを左之が受け止め、拙者に話しかける。
「嬢ちゃん、捕まえておけよ。」
「薫殿はあの様な男は苦手でござろう。歯がゆいでござる。」
「女ってのは、誉められると弱いんだよ。」
そこに薫殿が茶を持って帰ってきた。
「ねぇ!かすてぃらよ〜。嬉しいわね!」
「ほら見ろ。」
「剣心、好きでしょ!かすてぃら!」
「うーん……。」
確かに少し心配になるでござる。
「美味しいー!」
先ほどから怖いくらいずっと笑顔。
「薫殿。やけに上機嫌でござるなあ。」
「そう?別に普通よ。」
そう言いながらも、かすてぃらを笑顔で食べる。
「結婚する気がないならさっさと断るでござる。」
「はいはい。」
次の日。
また櫻井は来た。
拙者と薫殿が出迎えるなり、薫殿の頬に接吻する。
「ちょっと何するんですか!」
「すみません、あっちでの挨拶でしたから。つい癖で。」
「そうだったんですか。私の方こそすみません。」
「今日も美しいですね。」
「そんなことないです!」
拙者がいながら、二人は良い雰囲気を出す。
「立ち話もなんですから上がってください。」
「はい。」
今度は拙者が薫殿を掴む。
「帰ってもらった方がいいでござるよ。」
「そんな失礼なことできないわよ。」
言ってることが違うでござる…。