物語-弐


□『 痕跡 』
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「剣心。」


お風呂から上がって、縁側に行くと剣心が座っている。

手には逆刃刀を持って。




「あの男…誰なんだろうね。」

「あぁ。」


剣心はずっと逆刃刀を見つめる。


「こんな穏やかな生活をしていると、人斬りと言うことを忘れる。しかし所詮は…。」




所詮は人斬り。


そう言うかのように、剣心は寂しそうに笑う。



「過去は仕方ないわ。それに剣心は新しい時代の平和のために闘ったんじゃない。」

「過去は受け止めている。殺めた命のために拙者は一人でも多くを救うためにこの刀を振るう。
だが、憎む者もある。それは承知のこと。」

「でもあまり自分を責めないで。」



私が声を大きくすると、剣心はやっと視線を私に向ける。

優しく微笑む。



「人斬りの過去があり、流浪人になり、薫殿と出逢えた。拙者は幸せでござるよ。」

「私も幸せよ。」



剣心の手をとり、頬に当てる。

この人はこの手で人を殺め、この手で人を幸せにする。


消えない過去。

消えない痕跡。



だけど。

それを受け止めてこの人は生きてる。





「あの男が闘いを望んだら闘うの?」

「それが拙者の責任でござる。」

「そっか…。」



人斬り時代を知る敵。

斉藤一の時のように、剣心が抜刀斎に戻らないかな…。





「薫殿。」

剣心が口づけをする。



「拙者は緋村剣心。薫殿と暮らす緋村剣心でござる。」


私の気持ちを見透かしたように言う。




「うん。」

「さぁ、寝よう。」



そう剣心に手をひかれ、部屋に帰った。










 
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