物語-弐
□『 タヌキ寝入り 』
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「ただいま。」
拙者が帰ると、弥彦が駆けてきた。
あまりの勢いに何事かと思い聞くと、弥彦は小声で話し出した。
「薫が変なんだよ!薫の部屋に誰かいるんだよ!」
「誰かとは?」
「薫の様子見に部屋に行こうとして開けようとしたら……。」
弥彦の話によると…。
弥彦が薫殿の様子を見に部屋の近くまで行くと薫殿の話し声が聞こえた。
誰かいるのかと思って覗こうとしたら、薫殿の甘い声が聞こえたと言う。
「甘い声で…ござるか?」
「おう。くすぐったいとか…そこはダメとか…。」
弥彦の顔がどんどん赤くなる。
弥彦は初めて聞いたのだろう…。
「相手は帰ったでござるか?」
「部屋から出た様子はないぜ。」
「しかし……。」
履物が見当たらない。
玄関には拙者と弥彦と薫殿のしかない。
「本当に聞こえたでござるか?」
「あぁ!間違いねぇ!」
「しかし、履物がないでござるよ。」
「持って行ったんじゃねぇのか?」
「んー…。」
「解った!」
弥彦がひらめいた様子で話し出す。
「何をでござるか?」
「そいつは薫の部屋に住んでるんだよ。だから、薫が部屋からなかなか出ないだ。食事を残すのは持って行ってるとかよ。」
「まさか…。」
「可能性は無くないだろ。剣心!男なら確かめろ!」
子供の弥彦に押され、大人の拙者は薫殿の部屋の前まで来た。
「ちょっとくすぐったいわよ…!きゃっ…もう大人しくしててよ。」
「…なっ?」
本当に薫殿の部屋から甘い声が聞こえる。
「…そろそろ剣心達が帰って来るから隠れてて、ねっ。今日は林檎持って来るわ。」
拙者の顔が引きつるのを感じてか、弥彦が拙者を引っ張って居間に連れて行く。
「拙者が頼まれた林檎は薫殿が隠してる者の好きな食べ物でござったか…。」
「剣心、きっと女だよ!友達だって!」
弥彦は必死に拙者を説得するが、拙者の頭の中はあらゆる妄想でいっぱい。
そこに薫殿が顔を出す。
「帰って来てたの?!」
「居たら悪いかよ?」
「悪くないわよ!ビックリしただけよ!」
弥彦はすぐにでも薫殿に確かめようとするが、拙者はそれを止めて台所に弥彦と向かう。