物語-参
□『 逢いたい 』
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「嘘よ。うまく言えないんだけど、とっても愛しく思えたの。人斬り抜刀斎の語りたくない過去を私が守りたくなったの。」
今度の風はもう血生臭くはない。
目の前の人の香りしかしない。
目を大きくした拙者を見て、薫殿もハッとしたのか、「なんてね。」とお茶を呑む。
頬の十字傷に傷みが走る。
明日、墓参りに行こうとしていた。
言うべきなのか…。
薫殿にこの十字傷のこと、拙者のことを言うべきなのか…。
「ごめんなさい、急に変なこと言って。」
「いや、嬉しいでござるよ。」
急に黙り込んだ拙者を見て、不安そうな顔をしている。
今はやっと戻ったこの穏やかな時間を壊すべきではない。
この十字傷の話はもう少し経ってから…。