物語-壱

□『 複雑 』
2ページ/2ページ

「薫殿。」

「なに?」


二人で過ごすこんな穏やかな時間はいつぶりだろうか…。

薫殿を独り占めしたいと、いつから思っていたのだろうか…。



「左之にからかわれるのは好きでござるか?」

「好きって言うか…なんか楽しいかな。」

「楽しいでござるか?」

「ほらっ、師範代として皆の期待に応えなきゃって頑張ってるのね。だけど、左之は素直に弱さを出せるって言うか、任せられるのよね。バカだからかな。」


あははと笑って羊羹を食べる。


「拙者には素直になれないでござるか?」

「そういうわけじゃないわよ。左之は左之で、剣心は剣心。」

「でも拙者も…!」

「拙者も?」


左之みたくからかいたい。

左之みたく薫殿を素直にさせたい。


拙者の前で頑張ってる薫殿を解ってるから辛い。



「拙者の前では頑張らないで欲しい。」

「剣心の前が嘘ってわけじゃないからね。」


困った顔で言う薫殿。

ああまた無理をさせているのだろうか。


「でも誰にも見せない姿を私は剣心に見せてるわ。」

「例えば?」

「それは内緒よ。」


うふふと笑って、また羊羹を食べる。

なんだか釣られて拙者も笑ってしまう。



「剣心の前では少しは女らしい所見せてるんだからね。」


そう笑って言う薫殿。


そうかと拙者も笑う。




拙者だけの薫殿がこれからも増えますように。





 
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ