物語-壱
□『 複雑 』
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「薫殿。」
「なに?」
二人で過ごすこんな穏やかな時間はいつぶりだろうか…。
薫殿を独り占めしたいと、いつから思っていたのだろうか…。
「左之にからかわれるのは好きでござるか?」
「好きって言うか…なんか楽しいかな。」
「楽しいでござるか?」
「ほらっ、師範代として皆の期待に応えなきゃって頑張ってるのね。だけど、左之は素直に弱さを出せるって言うか、任せられるのよね。バカだからかな。」
あははと笑って羊羹を食べる。
「拙者には素直になれないでござるか?」
「そういうわけじゃないわよ。左之は左之で、剣心は剣心。」
「でも拙者も…!」
「拙者も?」
左之みたくからかいたい。
左之みたく薫殿を素直にさせたい。
拙者の前で頑張ってる薫殿を解ってるから辛い。
「拙者の前では頑張らないで欲しい。」
「剣心の前が嘘ってわけじゃないからね。」
困った顔で言う薫殿。
ああまた無理をさせているのだろうか。
「でも誰にも見せない姿を私は剣心に見せてるわ。」
「例えば?」
「それは内緒よ。」
うふふと笑って、また羊羹を食べる。
なんだか釣られて拙者も笑ってしまう。
「剣心の前では少しは女らしい所見せてるんだからね。」
そう笑って言う薫殿。
そうかと拙者も笑う。
拙者だけの薫殿がこれからも増えますように。