物語-弐


□『 夏の夜の肴 』
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「けーんしんっ。」

「薫殿。風呂から上がったでござるか。」


夏も終わりに近づいた。

涼しい風が夜には汗をさらっていく。



「うん。気持ちよかったわ、サッパリした。」

「暑い中、毎日稽古ご苦労でござるな。」


縁側に座って酒を呑んでいた。

涼しくなったとはいえまだ夏。

風呂上がりの酒が恋しくなった。

年寄りくさいと、薫殿に言われそうでござるな。



薫殿も隣り座る。



「楽しいからいいのよ。剣心もたまには相手してよね。」

「拙者は遠慮するでござる。」


誤魔化すように酒を呑む。

拙者を見て、薫殿が「あっ。」と言う。


「どうしたでござるか?」

「今日は曇りだから星ないでしょう。だからお酒美味しい?」

「あぁ…。」


薫殿が言い出したことについ笑いが出た。


「夏には確か星よね?」

「そうでござる。」

「師匠さんも上手いこと言うわよね。」


今思えば、師匠の顔と星を思い浮かべては笑ってしまう。


「何か肴、用意した方がいい?」

「いや、大丈夫でござる。」

「何を楽しんで呑むの?たぶん、何かしらあるから持ってくるわよ。」


立ち上がる薫殿の手を掴む。

相変わらず…細いでござるな。


「な、なに?」


薫殿が驚いた表情で拙者を見る。



「肴はもうあるでござる。」


薫殿を拙者の隣に誘導する。



「星よりも美しい人が隣にいる。それでこの酒は一番旨い。」



「剣心っ。」

さっき声をかけられた時のような優しい声が隣から拙者を呼ぶ。




酒とは違う、旨く甘いものが唇に触れた。


「薫殿は食べても旨いでござる。」

「剣心も。」



酒をおいて。

しばらく薫殿に酔いしれた。


そんな夏の夜。
 

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