物語-弐


□『 結婚しましょう 』
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「雨でござる。」

「濡れちゃうわ。」

「走ろうぜ!」



拙者と薫殿と弥彦で買物の帰り、通り雨が降る。

走って、屋根の下で一休みを取ることにした。



拙者達が入ると、一人男が拙者達より雨に濡れた身体を休めていた。



「あの、よかったら使ってください。」



そう薫殿は手ぬぐいを差し出した。


さすがでござるなぁと微笑ましくなる。




「ありがとうございます。貴女も降られましたか。」

「はい。早く止むといいですね。」

「えぇ。」



そう男は話し出した。

拙者や弥彦の方も見て、軽く会釈した。

拙者も会釈する。




「でも、雨もいいですよ。」

「そうですね、たまにはいいですよね。」

「こんなに綺麗な人に会えました。」

「はっ?」


そう薫殿に微笑む男。

驚き拙者と弥彦は男を見る。

薫殿も驚き男を見る。


男は何かおかしいかなと言うように微笑む。



通り雨が終わった。

少しずつ見える太陽。




「貴女のことは忘れません。必ずまた会います。」



そう薫殿の頬に口づけをして、男は歩いて行った。




「きゃーっ!!」


薫殿の悲鳴が響く。


拙者と弥彦は男の歩いて行った方を見つめた。








 
「なによ、あの人!」



家に帰ってからずっと薫殿はこう繰り返す。


「アイツ目腐ってるよな。薫が綺麗なんてお世辞でも言えねぇよ。」

「弥彦!」

「まぁまぁ。とにかく落ち着くでござる。」


拙者がなでめて一先ず落ち着く。


「しかし手ぬぐいだけで頬に接吻たぁ、嬢ちゃんも好かれたな。」


いつの間にか左之も加わり、さっきからゲラゲラ笑う。



「あんな助平な人に好かれたって嬉しくない!」


そう薫殿は怒って、部屋に帰って行った。


拙者が後を追う。



「薫殿、入るでござるよ。」


そう中に入ると、顔を真っ赤にしていた。


「恥ずかしい!信じられない!」

「まぁまぁ。」

「急によ!」



そう慌てる薫殿の頬に口づけをする。



「拙者も嫌うでござるか?」


そう言うと、また薫殿は顔を真っ赤にする。



「剣心は別にいいわ…。」

「一回だけとは言え腹立たしいが、薫殿は拙者が守る。頬も拙者が知る薫殿のまま。」



薫殿の頬に何度も口づけをする。

くすぐったいのか、薫殿が笑う。



「ほらっ、もう機嫌治ったでござろう。」

「うん。」

「さぁ、ご飯にしよう。」

「はーい。」







 
「すみません。」

「はいはい。」



それから一週間後。

あの男が訪ねてきた。

身形は西洋の服装。

馬車が門の前に止まっている。




「神谷薫さんをお呼びしていただけますか?」

「薫殿に何の用でござるか?」

「正式に結婚を申し込みに参りました。」

「結婚?!」


拙者の声に薫殿が出てくる。

しかし、この男を見ると拙者の後ろに隠れた。



「薫さん。探しました。」

「私は探してません!」

「とりあえずお話できませんか?」

「話ってなんですか?」

「結婚をしませんか?」

「結婚?!」




さっきの拙者と同じことを薫殿は言う。

以前、男は笑顔で薫殿を見る。


仕方ない…。


「拙者も交えて話すと言うことで良いでござるか?」

「貴方は?」

「緋村剣心、ここに世話になっている者でござる。しかし、誰より薫殿の近くにいて守ると決めている。」

「そうですか。その様な方でしたら、一緒に話したい方がいいですね。」

「中へ。」


そう拙者が男を中に通すと、薫殿は拙者の裾を掴み小声で話しかける。



「剣心!どうするのよ!」

「薫殿は結婚する気持ちがあるでござるか?」

「ないわよ!だから、門で帰ってもらった方がいいじゃない!」

「しっかり話せばいいでござるよ。」



薫殿の手を裾から拙者の手に回す。


「拙者もいるでござるよ。」

「ありがとう。」



そう力強く握り、歩く。
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