物語-壱
□『 手つなご 』
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「綺麗ね、夕焼け。」
「あぁ。」
買物帰りに何気なく座った川原。
拙者の隣には薫殿が当たり前になった。
「ねぇ、剣心。」
「なんでござるか?」
「…やっぱりなんでもない。」
「おろ。気になるでござるよ。」
「なんでもないの。」
夕焼けに照らされる薫殿はとても綺麗だ。
綺麗過ぎて、拙者の血や人斬りの罪で汚れた手で触っていいのか…。
伸ばした手をそっと戻す。
それに気づいて薫殿は拙者を真っ直ぐ見つめる。
「ねぇ。剣心は私に触れようとしなくなったよね。」
「……そうでござるか?」
「なんか時々寂しいのよね。私って剣心のなんだろうって。」
「………心配かけてすまない。薫殿が綺麗で、薫殿を好きだから拙者が触れていいのか不安になるでござるよ。」
「私は剣心と触れ合っていきたいわ。」
真剣な顔に思わず笑いが溢れる。
「ひどい、真剣に言ったのに。」
ぷいっと反対方向を見る。
「そんなこと言われたら触れずにはいられないでござるよ?」
「別にいいわよ。」
「男が考えることなどろくなことではござらんよ?」
「覚悟できてるもん。」
「………そうか。」
ムキになる薫殿が可愛くてしょうがない。
そんなに笑わないでよ、拙者を叩く。
「本当に可愛いでござる。」
「もう帰る。」
先に立って歩こうとするが、急にこっちに来るっと向く。
「剣心。」
「ん?」
「手つなご。」
そう笑顔で言う。
その手を力強く握る。
決してもう放さないように…。