物語-壱

□『 複雑 』
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前までは、こんな風に苦しいことはなかった。

ただ見てるだけだった。


だけど、今は苦しくてたまらない。




「もう左之ー!」

「チビだなぁ。」

「返してよ!」

「取ってみろよ!」


相変わらず左之は薫殿をからかう。

今度は薫殿のリボンを取って、それを高く上げている。

もちろん薫殿の身長からして、絶対に取れない。


「もうー!!バカ!」


バカって言いながら、薫殿はとても笑ってる。

矛盾してる。

嫌なら笑わない。



「薫殿、洗濯物を…。」

声をかけようとしたら、薫殿がバランスを崩して倒れそうになった。


「きゃっ!」

「危ねっ!」


拙者が手を出す前に、左之が身体で受け止めた。

…正確には一緒に倒れたのでござるが。


「大丈夫?ごめんね。」

「大丈夫だよ。ケガねぇか?」

「うん。ありがとう、左之助。」

「たくっ、師範代がこれじゃあ台無しだぜ。」

そう言って左之助が薫殿の頭をポンポンと叩く。


「薫殿!」


そんな二人を見ていたら急に大声を出していた。

ビックリして、二人がこっちを向く。


「なに?」

「あっ…その…洗濯物終わったで…ござるよ。」

「お疲れさま。」


自分でも考えてなかった行動に顔が熱い。


「そうだ!貰った羊羹があるの。みんなでお茶にしましょうよ!」


走って羊羹を取りに行く後ろ姿をずっと見つめる。


可愛いなぁって…素直に思う。




「剣心。」

ニヤニヤした左之。

「お前も素直になれよ。」

「何がでござるか?」

とぼけてみるが左之は全てお見通し。

「安心しろよ。」


そう言って左之が立ち上がって帰って行く。

そこに羊羹を持ってきた薫殿が来て、左之助は?と聞く。

「帰ったでござるよ。」

「珍しいわね、食べて行かないなんて。」
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