Novel 1st

□可愛いひよこ
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剣之助の手には女の子のひよこ。

ヒトミの手には男の子のひよこ。

これはわざとなんだろうか?

剣之助とヒトミは目を合わせると同時に吹き出した。

「なんかびっくりしたね」

「これペアなのに引き離していいんスかね?」

剣之助が手の中のひよこを見つめて言う。

「う〜ん・・・ちょっとかわいそうかもね?」

ヒトミも手の中のひよこを撫でる。

「やっぱり先輩コレ…」

「ダーメ」

言いかけた剣之助をヒトミが片手を上げて制す。

「せっかくだし、橘くんと私で一個づつ…お揃い、ね?」

上目使いに言われたら剣之助にイヤと言えるはずもなく。

「…っス」

「ありがとっ。なんかお揃いって嬉しいね」

「そっスね」

ヒトミがあんまり楽しそうに笑うのを見て剣之助の表情が緩む。

その頬がうっすらと赤くなっていることに本人は気付いていなかった。

「ひよこ可愛い〜」

嬉しそうにヒトミがひよこに頬ずりをする。

その姿をまぶしそうに剣之助は眺めた。

「ひよこより先輩の方が…」

言いかけて剣之助は口をつぐむ。

今、言おうとした事に顔がカッと熱くなった。

「ん?何?」

「な、なんでもないし」

「え〜気になるよ」

「いや、その…そうだ、先輩この後時間あるっスか?」

「え、うん大丈夫だけど」

「良かったらケーキ作るんで食べないっスか?」

「本当!橘くんのケーキならいつでも大歓迎だよ」

喜ぶヒトミが可愛くて剣之助が無意識に手を伸ばす。

柔らかい頬に触れた時、ハッと我に返った。

「た、橘くん?」

「す、すんません、なんか柔らそうで・・・」

「ガーン…これでも顔痩せ頑張ってるんだよ?プニプニしてるかなぁ」

ヒトミが確かめるように自らほっぺをつまむ。

「そうじゃなくて、ひよことどっちが柔らかいかな…とか」

慌てて適当な言い訳を作る剣之助。

可愛いと思った時には手が出ていた・・・剣之助はいつもヒトミにやっている根性試しが今身にしみてわかった。

やべぇ・・・俺、根性ねぇし。


剣之助のぐるぐる回る胸中をよそにヒトミは

「なにそれ〜、橘くんて面白いね」

なんて人の気も知らずにのんきに笑っている。

「えっと、じゃ、急いで買い物すませちゃうんで少し待ってて貰ってもいいっスか?」

「あっ、いけない!私も買い物に来たんだった」

どうやらひよこの事で頭がいっぱいで忘れてたらしい。

そんなところもヒトミの可愛いところだと剣之助は思う。

「じゃ、終わったら出口で待ち合わせでどうっスか?」

「うん、オッケー。また後でね」

ヒトミの後ろ姿を見つめたあと、剣之助は手の中のひよこを愛おしげに眺めた。

なんだかちょっと嬉しくてくすぐったい不思議な気持ちになる。

それはひよこに対してかヒトミに対してか…これからゆっくり考えるのもいいかもしれない。

剣之助はそう思い、ひよこを優しくポケットにしまった。



end



→あとがき
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