Novel 1st

□たとえばこんな日
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ヒトミがタオルをとってくる間に現場の台所をチェックする。

「いる?」

戻ってきたヒトミが遠巻きに声をかける。

よほど嫌いなんだろう。

「まだわかんない。ねぇ…そういえば鷹士さんは?」

いつもうるさい程ヒトミにべったりなシスコン兄・鷹士の姿が珍しく見当たらない。

「今日は仕事で帰ってこないの。いつもはお兄ちゃんが退治してくれるんだけど…ごめんね、雅紀くん」

兄がわりか…まぁ普段見れないヒトミが見れたわけだし出かけた鷹士に感謝したいくらいだ。

「別に…俺は頼ってくれて嬉しかったけど?」

様子をうかがったままのヒトミの側に行きその肩にかかっているタオルそっとをつかむとヒトミの頭に被せた。

「わっ」

「ちゃんと拭かないと風邪ひくよ」

「あはっ、シュタインと同じ扱いじゃない?」

はにかみながら見上げてくるヒトミ。

上目遣いってちょっと反則だ。

「ヒトミって可愛いよね」

そっと顔を近づけて自分の唇をヒトミの唇に優しく重ねる。

一瞬ビクッとヒトミの肩が揺れた。

そして驚き赤くなるヒトミの耳もとでささやく。

「シュタインにはこんなことしないよ?」

「雅紀く…」

カサッ

ヒトミが言いかけた時、どこからか物音がした。

音のする方をみればそこには…黒い影が。

「きゃぁぁぁぁ!出た!出た!出たよ雅紀くん!出た!」

涙目でシャツを力いっぱい掴むヒトミをこれまた可愛いなぁなんてほのかに顔を赤らめつつ、ヒトミの頭をまたぽんぽんとたたいた。

「わかったわかった落ち着いて。退治しとくからあっちにいってな」

「う…うん。お願いします」

黒光りするヤツ(ヒトミ的表現)を近くにあった新聞で殴り倒す。

んでもって回収処分。

仕事は完璧だ。

「お…終わった?」

恐る恐る声をかけるヒトミ。

「終わったよ」

いまだに怯えるヒトミを見て思わず苦笑してしまう。

台所で手を洗っているとヒトミがタオルを手渡してくれた。

「さぁてお姫様。これで任務は終了ですか?」

「あっ、はい。ありがとうございました。今お茶入れるから良かったら飲んで行ってよ」

「あ…うん」

壁にかかった時計をみればもう11時を指していた。

こんな時間に男が家にいるというのに彼女は深く考えないのか鈍いのかそれとも天然なのかいたって無防備だ。

「鷹士さんは明日帰ってくるんだよね?」

「うん明日の夕方かな。いつもお兄ちゃん賑やかだからいないとちょっと変な感じ」

クスッと笑うヒトミを後ろから抱きしめる。

「寂しいなら泊まっていってあげようか?」

耳もとで甘く囁いてみる。

「本当?」

驚きと喜びの入り交じった顔で振り向くヒトミ。

あれ?反応がちょっと予想と違ったな、まぁいいか。

「うん」

「じゃぁさゲームしよ?この間お兄ちゃんが買ってきた面白いゲームがあるんだよ!」

「え?」

ゲ・・・ゲーム?

思わず抱きしめていた腕が緩む。

「雅紀くんゲーム好きだよね?一緒にやりたいなって思ってたんだよ〜」

生き生きとゲーム機の方へ走り出すヒトミを見て、甘い空気とか色気とか恥じらいとかオレが教えてあげなくちゃな・・・。

そう心に決めた瞬間だった。

でもまぁ今日くらいは遊びつくすのもいいかもしれない。


end


→あとがき
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