桜日記
□雪あそび
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「斎藤さんっ」
「雪合戦はもう終わったのか?」
「はいっ平助くんたちは濡れた服を着替えに部屋に戻られました」
「楽しかったようだな。だが鼻が真っ赤になっているぞ」
「ひゃっ」
不意に斎藤手に頬を包まれ、千鶴は驚いた声を上げる。
「すまない…先ほど少し雪をいじったせいか俺の手もまだあまり暖かくは無いな」
「いえ暖かいですよ」
千鶴は自分の頬を包む大きな手にそっと自分の手を添えた。
二人は穏やかに見つめ合う。
「あの…斎藤さんも雪遊びされたんですか?」
そう尋ねると斎藤はすっと視線を横に下げた。
その視線の先を目で追うと縁側のほど近い場所に雪の塊が置かれている。
良く見るとそれは…
「雪うさぎ!斎藤さんが作られたんですか!?」
丸いというにはやや武骨で粗い雪の塊の上にぽつんと南天の実が二つ。そして耳と思われる葉っぱがずいぶんと頼もしく突き刺さっている。
「見よう見真似でやってみたのだが…存外難しいな」
「でも上手ですよ?」
「いや、千鶴が作ってくれたものとはほど遠い…」
残念そうに肩を落とす様子に千鶴はくすりと笑う。
「斎藤さん。この雪うさぎ、私にくださいませんか?」
「…貰っても仕方ないだろう。不格好なそれは…逆立ちしてもうさぎとは思えん」
どこか悔しそうな物言いがいつも冷静な斎藤とは思えないほど可愛らしく感じられて千鶴は雪うさぎを手にとって掲げた。
「貰っても、良いですよね?」
「…好きにしろ」
「はい」
不格好な雪うさぎは溶けるまで千鶴の部屋の側に置かれることとなった。
千鶴は毎日それを眺め、頬を緩ませる。
時折平助などにこれは何だと聞かれたりもするが「内緒です」と笑って誤魔化すばかり。
唯一それを知る作った張本人はどこかこそばゆい思いを感じていた。
「斎藤さん、今度は雪うさぎ一緒に作りましょうね」
「…そう、だな」
雪は二人を結びつけ、思い出と共に絆を深めて行くのだった。
End
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周りはきっと居た堪れないだろうけど常に二人の世界を作っていると良いと思う。
斎藤さんは千鶴の前だととても可愛い気がします。