桜日記

□お嬢様と忍者
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【転入初日】


「あの…山崎さん、私は一人でも大丈夫ですよ?」

「そうはいきません。俺は近藤さんにお嬢様をお守りするよう頼まれていますから」

「でも…」

本日付で薄桜学園に転入した千鶴は応接室にて担任が現れるのを待っていた。

元々この学園の生徒である山崎が共に付き添ってくれていたのだが

そろそろ授業が始まると言うのに離れようとしない。

このまま自分に付き合わせるのも悪いと思い千鶴はどうしたら良いかと思考を巡らせる。

「お嬢様、いくらここが近藤さんが学園長を務める場所であっても女子の割合が非常に少ないのです。そんな中で可愛らしいお嬢様をお一人になど出来ません」

「か、可愛くなんてないですし…すぐに担任の方もいらっしゃるはずですから」

さらりと言われた言葉に薄っすらと頬を染め、千鶴は恥ずかしそうに俯く。

そんな初な姿に山崎の心配は益々増すのだが本人は気付いていない。

「ああ、俺が一学年上であるためにお嬢様と同じクラスになれないのが悔やまれてなりません」

「いえ、そこまでしてもらうワケには…大丈夫ですよ?」

「…お嬢様の大丈夫はあまり当てになりませんから」

「そ、そんなことないです。ひどいです」

苦笑交じりにそう言われ千鶴は拗ねたように相手を軽く睨んだ。

山崎はその顔を見て何故か小さく笑う。

「少しは…肩の力が抜けたようですね」

「あっ…」

転入初日で自分で思うよりも身構えて居たことに気付く。

千鶴は苦笑交じりに笑顔を返した。

しばらくして勢い良く応接室の扉が開く。

現れたのはずいぶんと整った顔立ちの年若い男だった。

「悪い…待たせたな、担任の土方だ。雪村だったな、これから宜しく頼む」

「は、初めまして!雪村千鶴です宜しくお願いいたします」

礼儀正しく深々と頭を下げる姿に土方は感心したように目を細めた。

そして側に控える山崎へ視線を向かる。

「山崎、教室に戻って良いぞ。こいつは俺が連れていくから」

「はい、宜しくお願いします。お嬢様、俺はこれで失礼しますね」

「…はい」

一人で大丈夫と何度も言った千鶴だがいざ山崎が部屋を出て行こうとするとちょっとだけ表情をこわばらせる。

やはり緊張しているのではと見てとった山崎はぽんぽんと千鶴の頭を撫でた。

「土方先生は一見怖くて近寄りがたいかもしれませんが素晴らしいお方です、安心してください」

「おいおいそりゃどういう意味だ?山崎」

「いえ、深い意味はありません。ではお嬢様を宜しくお願い致します」

山崎は一礼すると応接室を出て行った。

一度心配そうに背後を振り返るが、腕時計を見て教室へと向かう。

始業時間まであまり時間がない。

山崎が教室に入り席に付くと隣の席の沖田が身を乗り出して尋ねて来た。

「ねぇねぇ、今日から噂の千鶴ちゃん来てるんでしょ?後で会わせてよ」

好奇心丸出しの沖田に山崎は冷めた目を向ける。

「…それは出来かねます」

「ええっ…冷たいなー近藤さんに話聞いてから会いたくて仕方ないってのにさ。ねぇ一くん?」

沖田は前の席の斎藤の背をツンとつついて声を掛けた。

迷惑そうに斎藤は振り返る。

「同じ学園にいるんだ、別に急がなくとも会う機会くらいあるだろう」

「でもさぁ早く見たいじゃん?ねぇ山崎くん、千鶴ちゃんって可愛い?」

「………」

「…つまんないなー会いに行っちゃおうかな」

「お嬢様は繊細なお方だ。興味本位でお会いして欲しくありません」

「ちぇっ、ガードが堅いなぁ」

これ以上話をしたくないと思った瞬間、チャイムが鳴り響く。

隣の男が頬杖をついてため息を吐くのを見届けると山崎はこれで諦めたかと一安心していた。





だがそれは油断に他ならず昼休みに驚くべき光景を目にする。

「………」

「へぇ千鶴ちゃんって前は女子高だったんだー」

なぜか直前の授業をサボっていたハズの沖田が千鶴のクラスにいて

しかも千鶴に向かっておしゃべりをしている。

山崎は一瞬自分の目を疑った。

「な、なんで沖田さんがお嬢様のクラスにいるんですか!」

「あ、山崎くん。いいじゃん別に、そんなこと」

「良くありません!」

「だいたいなんでこのクラスだって知ってるんですか!」

「平助からメール来たんだよね。可愛い子が転入して来たってさ」

「藤堂くんと同じクラスだったとは…くっ…迂闊だった」

「あの…山崎さん?」

睨み合う二人の間に小さな声が控えめに割り込む。

ハッと我に返った山崎は居住まいを正して千鶴に向き合った。

「すみません。取り乱してしまいました」

「いえ、あのお昼なんですけど…お友達も一緒に食べても良いですか?」

「お友達…ですか?」

「はい」

もう友達が出来たのかと山崎は少なからず驚いた。

大人しく消極的な彼女が初日で友達を作るなど意外でもあったがこれは良い事だと微笑む。

「お千ちゃんって言うんです」

「こんにちは」

千鶴に紹介された鈴鹿という少女は元気が良くてハキハキしており、なかなか好感が持てた。

さすが千鶴お嬢様だと山崎は心の中で感心する。

「では三人で食事を致しましょう」

「あっれ〜?ねぇ僕も入れてよ」

はいっと元気よく手を挙げて輪に参加する沖田。

山崎は厳しい視線で威嚇するが相手はものともしない。

「沖田先輩…も、ですか?」

「うん。僕も一緒に食べたいなぁ」

「では、ご一緒に…」

「やった!ありがとう千鶴ちゃん」

千鶴が戸惑いがちに頷くと沖田はここぞとばかりに手を握る。

すかさずその腕を引き離すように掴んだ。

「沖田さん!」

「いいじゃないこのくらい」

「ダメです!」

「あー総司!ずっりぃ〜なんで俺より先に転入生と仲良くしてんだよ!」

購買に行っていたらしい平助が教室に戻って来るなり大声で駆け寄って来た。

またやっかいなのが来たと山崎はため息をつく。

そうしてこうして結局5人で昼食を取ったのだった。





*・*・*・*・*・*・*・*・*・*


沖田さんはどんな時もマイペース。

山崎さんの苦労はきっと絶えない…。

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