Novel 1st
□たとえばこんな日
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たとえばこんな日・・・そんな時もあるさ。
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夜も10時を過ぎた頃…携帯が鳴った。
その音で相手は2ヶ月程前から付き合い出した愛しい彼女、ヒトミだとわかる。
こんな時間に電話が来るのはめずらしい、今日も昼間は一緒にシュタインの散歩にでかけた後なのにどうしたのだろう。
「もしもし?」
「雅紀くん助けて!」
電話に出るとヒトミの切羽詰まった声。
何事かと焦るがあえてゆっくりと話す。
「落ち着いて、今家?」
「うん……キャッ!」
ヒトミの怯えたような悲鳴に雅紀はさっと立ち上がった。
そしてそのまま玄関に向けて走り出す。
「ヒトミ?今すぐ行くからちょっと待ってて!」
無我夢中で家を出てヒトミの部屋へ向かった。
エレーベーターを待つのももどかしくそのまま階段を駆け上がる。
今まで他人に関わらない様に無関心を続けてきたのにヒトミの事になるとこんなにも必死になってしまう。
「ヒトミ!」
501号室にたどり着き、玄関を開けて雅紀が中に飛び込むとヒトミがしがみついてきた。
雅紀はヒトミの震える肩を優しく抱きしめて問う。
「何があったの?」
「で…出たの」
「出たって何が?」
「茶色くて黒光りする虫」
虫…?具体的な名前がないが少し考えるとだいたい想像がつく。
「あぁゴキブ…」
「その名前を言わないで!」
「……ぷっ」
拍子抜けして雅紀は思わず吹き出してしまった。
「なっなに…?」
ヒトミが潤んだ目でキョトンと見返してくる。
「ゴメン。何があったのかと思ったら…なんだ…」
気が抜けて思わず笑顔がこぼれた。
「なんだ…じゃないよ、おおごとだよ!」
すねたように必死に訴えるヒトミが可愛くて可愛くてとても愛しく思う。
落ち着いてよく見ると彼女はかわいらしいヒヨコ柄のパジャマにいつもは一つに纏めている髪をおろしている…その髪がまだ濡れているのに気付いた。
「雅紀くん?」
「髪…濡れてるよ?」
「あ…うんお風呂上がりにのどがかわいて台所にいったら…出たのよヤツが!」
思いだしたのかヒトミの目がまた潤む。
安心させるようにポンポンと頭を叩いた。
「とにかく風邪ひくから拭かないと…そのままでも艶っぽくて良いけどね」
口角をあげて他の人には見せない笑顔でからかうとヒトミはすぐに真っ赤になる。
「もぉっ!ばか………少し一緒にいてくれる?」
「もちろん。大丈夫、またヤツが出たら退治してあげるし」
「ありがとう」
ホッとしたようにそう言うヒトミの笑顔が可愛くて一瞬ドキッとした。