Novel 1st
□それゆけ運動会 中編
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それゆけ運動会…お昼まであと少し
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「やったぁ1番だったよ」
二人三脚を終えてニコニコとヒトミと雅紀が戻ってきた。
その足には何故かまだ紐を結んだまま。
「先輩お疲れっス。足、紐解いた方が良いんじゃないスか?」
真っ先に気付いた剣之助の問いに雅紀が答えた。
「うん、でも固く結んじゃって解けなくなっちゃったんだよね」
ヒトミがしゃがみこんで解こうとしたが結び目がびくともしない。
「ヒトミ、兄ちゃんにかしてみろ」
こっそり雅紀を一睨みしてから鷹士も挑戦するがなかなか解けない。
「困ったね」
ヒトミが雅紀の顔を見て言った。
「まぁそのうち何とかなるんじゃない?」
「華原くんてば呑気なんだから」
「僕に任せて貰えるかな?」
綾人が何処からか取り出したナイフを構える。
そして思い切りよく紐を切り離した。
「うわっ!」
勢いあまって危うく雅紀の足をかすりそうになる。
「ゴメンごめん大丈夫だった?」
「あ…はい大丈夫です」
いつもの笑顔で返す雅紀だが心なしか引き攣っていたのは言うまでもない。
そんな事に気付かずヒトミは感謝をのべる。
「神城先輩ありがとうございます」
「お前なんでナイフなんか持ってんだよ?」
「あはは…備えあれ、ですかね」
龍太郎の質問を綾人は笑ってごまかした。
その光景を遠巻きに見ていた颯大が剣之助に囁く。
「神城先輩ってさ、やっぱりちょっとすごいね」
「あぁ…」
「今さ、絶対雅紀先輩の足狙ってたよね?」
「…深水も気をつけろよ?」
「剣之助もね」
続いて借り物競走のアナウンスが入る。
剣之助、楓、鷹士が参加する事になった。
「これはみんなで協力しないとだね」
「まぁお題の中身は運次第だけどな?」
意気込むヒトミにのんびり構える龍太郎。
「あっ早速時田先輩が来たよ!」
颯大がみんなに声をかける。
「あのぅ…すみません」
この時ばかりはのんびり話す楓がもどかしく応援組はヤキモキする。
「ええと…」
「早く早く時田先輩!」
颯大が焦らせる。
「あぁはい、カーリのクラムチャウダーって書いてあるんですが…これは何かの暗号でしょうか?」
「ち、違うよ時田くん。カーリってお菓子のクラムチャウダー味って事だと思うよ」
真面目に悩み込む楓にヒトミが答えた。
「私、今日お菓子持って来てないや…誰か持ってる?」
「ヒトミ先輩!お菓子と言えばボクでしょ。ジャーン!」
颯大がバッグからカーリを取り出す。
「颯大のお菓子好きも役に立つんだな」
「雅紀先輩、何それ」
「まぁまぁ二人共。時田くん、これ持ってゴールだよ頑張って」
楓の手にカーリを持たせヒトミが背中を押す。
「あのぅ桜川さん、ゴールはどちらでしょうか?」
「えぇ!?あそこ、旗がいくつか立ってる所だよ」
「あぁ、あそこですか、ありがとうございます。行ってきますね」
「時田くん心配だなぁ・・・」
ゴールにはすでに何人か到着している様だった。
小走りで楓が向かうが途中何回かカーリの袋を取り落とし、
「ボクのお菓子が…」
颯大が悲しげに呟いた。