桜日記

□隣のTwins
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「「来ちゃった」」

玄関を開けた瞬間、幼馴染の双子は声を揃えてそう言うとニッコリと笑った。










この春から大学生となり、実家と大学の中間に当たる位置にアパートを借りて一人暮らしを始めた。

どちらかと言えば放任主義の親のおかげで特に何か揉めることも無く引越しをし、ようやく慣れ始めたと言う頃。

その二人はやって来た。

「へー、結構良い部屋住んでんじゃん」

「なんかスッキリしてるね、はじめくんらしいけど」

実家の隣に住む二つ年下の仲の良い双子は彼らの両親が多忙の為、よく俺の家に預けられていたせいもあり兄妹の様に育った間柄だ。

確かに一人暮らしを始めた際に遊びに来ればいいとは言った。

だが、予告もなしに訪れられればさすがの俺も驚くというものだ。

「はじめくん、これ引越し祝いのお菓子」

「ああ…すまない、ありがたくいただく。今茶を入れるから座っててくれ」

「「はーい」」

二人は双子ならではか声を重ねて返事をした。

男女の違いはあれど二人は見た目のみならず良く似ている。

どこか心和む気がした。

「薫、早く座って」

「いいじゃん千鶴、もっと見たって」

妹の千鶴に諫められても兄の薫は部屋の中をきょろきょろと見まわしている。

面白いものなど無いのだが一人暮らしの俺の部屋が新鮮で気になるのだろう。

コーヒーを二つとカフェオレを一つトレーに乗せて二人の元へと向かう。

俺が来たのに気付くと薫も大人しく千鶴の側に座った。

「それにしてもなんでこんな時間に来たんだ?」

もう窓の外は暗くなり始め、時計の針が18時を過ぎている。

いくら高校生とはいえ、あまり遅くに出歩くのは感心しない、早めに帰さねば。

「………」

「………」

「…どうした?」

二人が顔を見合わせて物言いたげにしているのに気付き、不審に思う。

そういえば二人は少しばかり荷物を持って来ていたな。

「な、なぁ…はじめ」

薫が少しだけ躊躇いがちに口を開いた。

この少年は何故か昔から俺を呼び捨てにするがもう慣れてしまったのか今では気にならない。

「なんだ?」

「今日さ、俺たち泊まってくから」

「は?」

泊めてくれ、とか泊まってもいいか?では無く、泊めまってくとはどういったことか。

思わず眉間に皺がより、それを見た千鶴が慌てだした。

いかん、怯えさせてしまったか。

「だ、だめだよ薫!そんな言い方しちゃ…」

「なんだよ、だって俺らそのつもりで来たろ?」

「そうだけど…あ、あのごめんね、はじめくん。今日、ウチ両親いなくて…その…」

千鶴の言葉になるほど、と合点がいった。

昔から二人は両親が留守の時は必ずと言っていいほど俺の家に泊まりに来ていた。

まだ幼い頃、家に強盗が入った際に居合わせてしまった二人がとても怖い思いをした事を俺はまだ覚えている。

それからしばらくは俺の部屋で朝から晩まで三人で過ごしたことも。

薫は年月が立つにつれ、大分その出来事を乗り越えたように思うが千鶴はまだ深く傷ついたままでトラウマになっていることに俺は気付いていた。

本人がそれを隠そうとしていることも…

だから尚のこと薫がその事に気を付けている。

「別に俺は構わないが…次からは連絡の一つもしろ、俺がまだ帰ってなかったらどうするつもりだったんだ」

「「まぁ、なんとかなるかなって」」

また二人は声を揃えて答えた。

呑気なところも良く似ている。

呆れつつも笑みがこぼれた。

「お前たち夕飯は?」

「まだ、でも風呂は入って来た」

「あ、私ご飯作るね。はじめくんまだでしょう?」

「あ、ああ」

材料は買って来たと言って千鶴が席を立とうとする。

用意周到とはこのことだろうか。

「それを飲んでからで良い」

そういって座るように促すと千鶴は昔から変わらない笑顔をみせてありがとうとカフェオレの入ったマグカップを両手に包む。

そしてゆっくりで構わないというのにコクコクと飲み干して立ち上がった。

「台所借りるね」

「ああ、では俺も」

「あっ、はじめくんは座ってて!今日は私に任せてくださいな」

「そうか。では何かあったら呼べ」

「うんっ」

律儀な彼女はお邪魔するからには自分がという気持ちがあるのだろう。

そんな所を常々好ましいと思う俺は素直に甘えることにした。

口元が緩むのを誤魔化すように温くなり始めたコーヒーを一口飲む。

チラリと千鶴の片割れである薫を見れば早速我が城のごとく寛いでいた。

「…お前は相変わらずだな」

「ん?…そうだ、はじめ」

「なんだ?」

手近なクッションを拾い上げて抱え込んでいた薫は急に真面目な顔をして俺をじっと見つめて来る。

千鶴が居なくなったの待っていたかのようなこのタイミングに俺も薫を見返した。

「あのさ、今日俺と一緒に来て千鶴も道覚えたと思うし…あいつが一人で来ても面倒みてやってくれよな」

「基よりそのつもりだが…どうした急に」

「…俺、バイトしようと思ってさ」

「そうか、良いんじゃないか」

「だからさ、親いない時とか俺がもし遅くなるような事あったら宜しく頼むな?」

「ああ、俺も大学とバイトがあるが夜は大概いるからな極力応じよう。バイトは決まったのか?」

「いやまだ、これから探すつもり」

「俺が紹介してやろうか?」

「…沖田とかいそうだからいい。困ったら頼むかも」

「了解」

俺の友人の沖田総司の名前が出ると薫はあからさまに嫌な顔をした。

何故か知らないが総司と薫は犬猿とも言える仲で顔を合わすと揉めている。

確かに俺の伝ではどこからか薫のバイトを知った総司が冷やかしに行く可能性もあるから薫の心配もあながち間違ってはいない。

「はじめくーん!大きいお鍋どこー?」

台所でバタンバタンと戸を開け閉めする音と共に千鶴の声がかかった。

確か大きい鍋はそう使わないからと奥にしまいこんでいたと思いだしながら俺は台所へ向かうべく立ち上がる。

すると俺の腕を横から男にしては若干細い手が掴んだ。

「はじめ、この話まだ千鶴にはするなよ?決まったら俺から話すから」

「…心得ている」

心配性な兄の姿に小さく笑うと薫は拗ねたように俺を軽く睨みかえす。

それすらも微笑ましくて薫の頭を本人が文句を言うのを無視してかき混ぜてから千鶴のいる台所へと向かった。
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