桜日記

□ヤキモチの行方
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「何してんの?」

茶化すように言おうと思ったのに自分の口から出た言葉は思いのほか刺々しかった。

そのせいか目の前の二人はみるみる顔色を変える。

「あ、あの…そのっ」

「いや、総司!これには訳があってな」

動揺して口をぱくぱく金魚みたいにしている千鶴ちゃんを背後から抱きしめている新八さん。

新八さんが大きいからまるで千鶴ちゃんが捕獲されたみたいだ。

そんなことを思いながら慌てる二人の足元に散らばった洗濯物に目を走らせる。

それが本来あったと思われる、千鶴ちゃんの腕にはまだいくつかの洗濯物があった。

この状況を見れば何があったかなんて想像に難くない。

大方、おとした洗濯物に足を滑らせた千鶴ちゃんを通りかかった新八さんが受け止めた…そんなところだろね。

でも…



おもしろくない



「とにかく、早く離れなよ新八さん」

千鶴ちゃんの正面に立って細い腕を勢いよく引き寄せる。

更に何枚かの洗濯物が落ちたけど気にしない。

だけどすぐに僕の胸に飛び込んでくると思っていた彼女はまだ、新八さんの腕の中にいた。

「…いたっ」

「あ、ごめん」

小さな悲鳴にさすがに手の力を緩める。

何があったのかと見れば千鶴ちゃんが高く結っている髪紐が新八さんの首飾りに引っかかってしまっていた。

「わ、悪い千鶴ちゃん!今外すからよ」

「すっすみません、永倉さん」

新八さんが千鶴ちゃんを抱えていた腕を離して髪紐を引っ張る。

不器用な彼が慌てて外そうとするからなかなか上手くいかない。

あ…と思った時にはそれは解けて、鶴ちゃんの艶やかな黒髪がさらりと広がった。

「千鶴…ちゃん?」

印象が一気に変わって正面にいた僕は思わず目を奪われる。

白い肌に映える黒い髪と大きな瞳。

いつもの幼さが身をひそめ、可憐という言葉が頭を過った。

「ああっ悪い!申し訳ねぇ」

やっちまったと更に慌てる新八さん。

本当、何してくれてるんだろうね。

「新八さん、わざと?」

「バカ、そんなわけねーだろ!不可抗力だ!」

「あ、あの…」

「もう、いくら千鶴ちゃんの髪に触りたいからってタチ悪いよね」

「だから違うって言ってんだろ!」

「私は大丈夫ですから、また結べば良いだけですし…ひゃっ」

新八さんを振り返ろうとした彼女の頭をがっしりと抑えた。

千鶴ちゃんが良くても僕が大丈夫じゃない。

「お、沖田さん?」

「うん?」

不思議そうに見上げてくる千鶴ちゃんにニッコリと笑みを返す。

いくら男装してても髪を下ろしたら女の子にしか見えないじゃないか。

君が女の子としてみんなの視線にさらされるなんてたまったものじゃない。

「じゃぁ僕が結いなおしてあげるよ。結構得意だと思うんだ。やったことないけど」

自信たっぷりに言って新八さんの手から髪紐を奪い取るとそのまま千鶴ちゃんの手を引いた。

もちろん新八さんに千鶴ちゃんの可愛い姿なんて見せてあげない。

「あ、これ責任もって片しておいて下さいね」

新八さんに向けて足元に散らばっている洗濯物を指差す。

結構派手に散らばってるけど、まぁいいよね。

「じゃ行こうか千鶴ちゃん」

「沖田さん、私自分で出来ますから!それより先に洗濯物を…」

「ああ…はい、新八さんこれもよろしくね」

千鶴ちゃんの手に残っていた洗濯物に気付いてそれを新八さんに押しつける。

勢いに押されたのか呆然としていた新八さんは素直にそれを受け取った。

「沖田さんダメです、そんな…」

「もう用はないよね、新八さんがやってくれるんだから。ほら行くよ」

「沖田さん!」

ぐいぐいと引っ張って自分の部屋へと連れ込む。

襖を閉めればやっと諦めたのか渋々ながらも千鶴ちゃんは指示した場所に腰を下ろした。

その背後に座って髪に手を伸ばす。

柔らかくて指通りの良い感触につい遊ぶように髪を梳いているとくすぐったいのか千鶴ちゃんが肩を竦めた。

「沖田さん、私本当に自分で…」

「いいじゃない僕がやっても、ダメかな」

「ダメと言いますか…その…恥ずかしいです。子供みたいですし…」

「そう?そんなことないよ。僕だってちゃんと櫛くらい持ってるし綺麗に結ってあげるから、ね?いいでしょ?」

ちょっと卑怯かもしれないけれどお人良しな千鶴ちゃんはこんな風に言われると断れないと知っている。

肩越しに見える頬は桃色に染まり…ほら、頷いた。
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