桜日記
□雪あそび
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目の前に広がる銀世界。
夕べ思いのほか積もった雪に千鶴は胸を弾ませ縁側へと急いだ。
こんな綺麗な雪景色の日は
きっとそこにあの人が居る、そう思ったから。
「斎藤さんっ」
その姿を見つけた瞬間、気付いたら名前を口にしていた。
縁側に腰掛けて庭先を眺めていた青年はゆっくりと振り返る。
雪に反射した淡い日の光を受けて中性的で調った顔立ちが益々美しく、まるで一枚の絵の様だった。
息をするのも忘れるくらい目を奪われてしまう。
「ああ千鶴か、おはよう」
「お、おはようございます。あの…隣良いですか?」
「ああ構わない」
「ありがとうございます」
「…どうした、何か楽しそうだな」
斎藤の隣に並ぶようにして腰を下ろした千鶴。
ニコニコと頬笑みを浮かべる姿に斎藤もつられてにわかに口元を緩めた。
「ふふっ…雪がいっぱい降ったので斎藤さんは雪を眺めにここにいらしてるんじゃないかって思ってたら本当にいらっしゃってたのでなんだか嬉しくて」
「………」
「斎藤さん?」
「…それは俺に会いたくて来たと思って良いのだろうか?」
「えっ…」
「わざわざ確かめに来たのだろう?」
「えっと…その…」
「ふっ…千鶴は、可愛いな」
「…っ」
囁くように呟かれた言葉が耳に入り千鶴は真っ赤になる。
しどろもどろになる様子がまた可笑しくて斎藤は千鶴の頭をポンと撫でた。
すると拗ねたように上目遣いで見返す。
「…もう!からかわないでくださいっ」
「からかってなどない…本当のことだ」
最後の言葉は躊躇いがちに視線を逸らされたものの斎藤の照れた顔を見て、千鶴は益々真っ赤になる。
そんな二人の元へ元気な声が割り込んで来た。
「おーい!」
「「!」」
二人はハッと我に返ってわずかに距離を取った。
「平助か…」
「千鶴!一くん!一緒に雪合戦しようぜ!」
庭先から平助が大きく手を振って二人に呼びかける。
彼の後ろでは雪合戦に参加するであろう原田と永倉がおしゃべりをしながら体をほぐしていた。
「俺は遠慮しておこう」
「えー…千鶴は来るだろ?」
「あ…うん、楽しそうだし混ぜて貰おうかな」
「おう、早く来いよ!」
「うんっ今行くね」
千鶴は外へ出ると平助たちの元へと急いで向かう。
だが、その途中、背後から声がかかった。
「千鶴、ちょっと待て」
「なんですか?斎藤さん」
斎藤は静かに手招きして千鶴を呼び寄せた。
不思議そうに首を傾げながらも側へ行くと…
「今日は冷える…これをしていけ」
次の瞬間、ふわりと暖かい温もりに包まれた。
「あ、ありがとうございます!」
千鶴は勢い良くお礼を言うとくるりと踵を返した。
「お待たせー」
パタパタと小走りで三人の元へと駆け寄る。
「遅いぞ千鶴!もう勝手に組分けしちゃったかんな…って、それどうしたんだよ」
「そいつは斎藤の…だよな」
平助が千鶴の首元を指差し、原田がその物の正体を言い当てる。
二人の反応に千鶴は首に巻かれた白い布に嬉しそうに触れて微笑んだ。
「斎藤さんが…貸して下さったんです」
「「………」」
頬を染めあまりに嬉しそうな笑顔に平助と原田が言葉を失った。
ただ一人、空気の読めない永倉は
「良かったな。斎藤って結構面倒見良いよな」
などと笑っている。
なんとも言えない歯がゆい空気に平助はわしゃわしゃと髪をかき交ぜた。
「あーもう!左之さん新八っつあん!今日は手加減無しだかんな」
「わかってるって」
「おうっどんと来いや!」
「私も頑張ります」
こうしていつもよりも白熱した雪合戦が行われたのだった。