パラレル Bleach
□Family travel
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『Family travel』・・・本当のところ
*・*・*・*・*
「はぁ〜」
心の底から染み出る声。
熱めのお湯がじんわりと体をほぐしていく感じがした。
湯けむりに囲まれてのんびりと空を仰ぐ。
たまにはこんな風にくつろぐのも良いかもしんねぇな。
事の起こりは三日前。
「「ただいま」」
織姫と二人、揃って帰宅したときのことだった。
バタバタと賑やかな足音を立てて遊子、夏梨、親父が玄関まで走ってきた。
靴を脱ぐ手も止まるほどの勢いに俺たちは目を丸くする。
「お、お兄ちゃん、お姉ちゃん!すっすごいんだよ!」
「遊子、それじゃわからないよ。今日の帰りに遊子がさ、当てたんだよ」
「夏梨の言葉に補足するとだな、週末は温泉旅行に行くことになった!」
「ちょっと待て!三人とも全然わかんねーよ!」
遊子、夏梨、親父…三人とも慌て過ぎ。
しかも妙に目をギラギラと輝かせて少し怖いくらいだ。
「あ、あはは…と、とりあえず中で話そっか?」
苦笑しつつ織姫がリビングを指差す。
そーだよ、俺たちはまだ靴も脱いでねーっての。
三人は何か話したくて仕方ない感じだがとりあえず場所を変えて話す事に同意した。
「は?温泉旅行の抽選に当たった?」
「そう!今日ね夏梨ちゃんと商店街でお買い物したら商店街の抽選券を貰ったの。それでね思い切ってひいてみたら1等があたったんだよ!」
「そうそう!で、その1等ってのがなんと温泉旅行だったってワケ」
遊子と夏梨が興奮しがちに説明をしてくれた。
なるほど、確かにそりゃテンション上がるな。
「すげーな遊子!」
「えへへ〜」
手柄をたてた妹の頭を撫でてやったら嬉しそうにはにかんで笑った。
いつもしっかりものの遊子だからこんな顔を見るのは久しぶりだったことに気づく。
織姫もだけど高校生よりも小学生の方が帰宅時間が早いからいつもいろいろ頑張ってくれてるもんな。
「でもお父さん、さっき週末って?」
織姫が小首をかしげながら親父に問いかけた。
そいうやさっきそんな事言ってたな。
「おう、せっかく遊子が温泉旅行を当てたことだしさっそく週末に行くことにした!」
「なっ早過ぎだろオイ!」
もう週半ばだぞ!何考えてんだこの親父は!
「だってぇお父さん休めるの週末だけだしぃ〜」
「キモい語尾の話し方すんな!」
「うがっ!」
気色悪さに思わず拳が出てしまった。
付き合いの良い織姫が大げさに痛がる親父を構ってやっている。
横目でそれを見ていたらツンと服の裾を引っ張られた。
「あのね、お兄ちゃん。お父さんはねいつもお仕事で旅行とか行けないから折角だしすぐに行こうって言ってくれたんだよ」
「まぁ…あのヒゲなりにあたしたちに気をつかったんじゃないの?」
遊子と夏梨が俺を見上げてそっと呟いた。
確かに自営業だし、まともに旅行なんて行った記憶はない。
親父も親父なりに気にしてたってことか…。
「そっか…悪い。んじゃ週末行くか」
「「うんっ」」
声をそろえた妹たちに思わず顔がほころぶ。
そうだよな、こいつらまだ小学生だもんな。
「楽しみだね」
柔らかい声が背後から聞こえ振り返ると織姫もにっこりと笑っていた。