パラレル Bleach
□Precious
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『Precious』・・・君をこの手に
*・*・*・*・*
中学生のある日、ウチの病院で井上織姫の兄貴が息を引き取った。
縋り付いて「一人にしないで」と泣き叫ぶ姿が目に焼き付いてずっと離れないでいる。
どちらかと言えばクラスで大人しい方の彼女がこんな大声で泣くなんて思わなったから…。
天涯孤独となってしまった彼女をウチの親父が養子として迎え入れる事にした。
同じ中学のクラスメートの女子がある日突然家族になったワケだ。
小さい妹たちはすぐに彼女に懐いたけど俺はぎこちなく言葉をかわすしか出来ない。
嫌いなワケじゃない、どうしていいかわからないんだ。
ただでさえ女子とは幼なじみのたつきくらいしか話をしないし、それがいきなり家族だなんて受け入れろってのが無理な話だろ。
唯一の救いは井上がたつきの親友で俺のクラスメートで全然知らない奴じゃないって事かもしれない。
井上の苗字と住所が変わってあっという間に俺たちが兄妹になった事が学校に広まった。
冷やかして来る奴らは容赦なく殴り倒した。
井上から話を聞いていたのかたつきは早々に俺のところに来て「織姫をよろしく」とだけ言った。
俺はぼんやりと「ああ」と答えるしか出来なかったがそれでも構わなかったらしい。
たつきは俺の肩をポンと叩いてこれ以上何も言わずにいてくれた。
それが少しだけ嬉しかった。
ウチに来てしばらくすると井上は家事を手伝う様になった。
妹たちはまだ小さいし、俺はあまり器用ではなくてウチの事はほとんど親父がやっていたから正直助かる。
それに妹たちの相手をしている時には笑顔すら見せるようになった。
立ち直りが早い奴なんだなって単純にそう思った。
「おかえりぃお兄ちゃん」
「一兄おかえりー」
「おー遊子、夏梨ただいま」
妹たちはいつも俺が帰ると駆け寄って抱き着いて来る。
最近はその後に井上も出迎えてくれる様になった。
「おかえりなさい。ご飯もう出来てるよ」
「あー俺、後で食うから今はいいや」
そう言って真っ直ぐ自分の部屋に戻ろうとすると横からガツンと殴り倒された。
油断した、親父の気配にまったく気付かなかったなんて。
「一護!反抗期だかなんだか知らねぇが飯はみんなと一緒に食え!」
「イテーだろうがクソ親父!怪我したらどうすんだ!」
「そしたら俺が治療してやるわい」
「ったく、ほっとけよ後で食うって言ってんだろ」
「ダメだって言ってんだろーが!」
そしていつもの殴り合い。
結局いつも親父の思うとおりになるんだ。
クソッぜってーいつか勝ってやる。
しぶしぶと俺は食卓に着いた。