桜日記
□お嬢様と忍者
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【みんなでお昼】
ぽかぽかとした陽気の中、屋上にて昼食をとっていた一同。
千鶴は鈴鹿や平助からいろいろと質問責めにされ、戸惑いながら答えていた。
良くある転入生の光景だろうと山崎も黙って見守る。
警戒すべき沖田は黙ったままみんなの話を聞いていた。
そんな時、
「千鶴!」
バンッと屋上に飛び込んできたのは中性的な顔立ちの少年。
可愛らしい顔を怒りに歪めている。
「か、薫!?」
千鶴は驚きのあまり食べかけのサンドイッチを落としそうになってしまった。
少年はずかずかと近寄って千鶴の前に立つ。
「千鶴!ちょっとなんで今日からだって僕に連絡くれないのさ」
「あ、あれ?私連絡してなかったっけ?」
「聞いてないよ!ったく…相変わらずぼんやりしてるんだから」
少年は呆れたとばかりにため息をつきながら側に腰を下ろす。
そして千鶴の膝の上のサンドイッチに手を伸ばした。
「まぁ千鶴がどんくさいのは今に始まったことじゃないけどさ。連絡くらいちゃんとしなよね、本当抜けてるんだから」
「ごめんなさい…」
ひどい言われように千鶴はしゅんと項垂れる。
「ちょっとあなたね…」
「お前いきなりなん…」
鈴鹿と平助が文句を言おうとした矢先、それを遮って山崎が少年に言葉を発した。
「南雲、いくらお嬢様の兄と言えど今のはいただけないな」
「なに?兄妹ケンカに他人が口を挟まないでくれる?」
「それにお嬢様の食事に手を出すな」
「妹の物は俺の物に決まってるだろ」
バチバチと火花を散らす少年と山崎。
そんな二人を眺めていた沖田はおにぎりを頬張りつつ少年に尋ねた。
「ねぇ君って千鶴ちゃんの兄妹なの?」
「見てわからないの?目が腐ってるよ」
睨みつける様にして言い返され、さすがに沖田もムッとする。
「ちょっと薫!先輩にそんな言い方ダメだよ」
「わかりきったこと聞くからいけないんじゃないか」
慌てて千鶴が窘めるが効果は薄い。
「…僕、彼とは合わない気がするな」
沖田が残りのおにぎりを口に放り込むと誰ともなく呟いた。
千鶴は慌てて少年を紹介する。
「あの、彼は南雲薫と言って私の双子の兄なんです」
「へぇ…確かに千鶴と南雲って顔がそっくりだよな」
「でも中身は全然違うみたいね」
平助は感心して二人を見比べるが鈴鹿は少し厳しい口調で感想を述べる。
薫はフンと鼻を鳴らして腕を組んだ。
「あーあ、なんで千鶴は俺のクラスに入ってこないかなぁ…言っとくけど、千鶴をいじめていいのは俺だけだから」
「「は?」」
鈴鹿と平助は声を揃えて目を丸くした。
「ちょっ…薫」
「へぇ?なに君シスコン?」
千鶴が困ったように眉を寄せれば沖田はからかうように薫に尋ねる。
始まった…と、山崎は疲れたようにため息をついた。
「お嬢様、気にせず昼食を続けてください」
「あ…はい…」
山崎は自分の分のサンドイッチを千鶴に分け与えた。
千鶴の分は薫が食べてしまったからだ。
「す、すみません…ありがとうございます」
「もし足りないようでしたら言ってください」
「大丈夫ですよ、山崎さんこそ足りなくないですか?」
「問題ありません、お気になさらずに」
「ちょっとそこ!無視すんな!」
穏やかに会話する二人に薫が面白くないとばかりにつっかかる。
そこへ新たな人物が姿を現した。
「南雲ここにいたのか」
「誰?って斎藤先輩か」
呼ばれて振り返った薫はなんだと力を抜いた。
沖田と山崎のクラスメイトである斎藤が薫を探していたらしい。
「あれぇ一くん?どうしたの?この生意気なガキと知り合い?」
「生意気なガキって俺のことじゃないよな」
「自覚が無いって怖いねぇ、これだからお子様は」
「沖田てめぇ!」
「君さ、先輩を呼び捨てにする気?っていうか何で僕の名前知ってるのかな」
「自覚が無いって怖いねぇ、顔と頭はボチボチ良いけど問題児で有名だってのにさ」
「君さ、いい度胸してるよね」
ビリビリと火花を散らして睨み合う二人。
どうやら本当に相性最悪らしい。
「あの、斎藤さんは南雲に用事があったのではないですか?」
目の前に勝手に始まった口喧嘩に呆気にとられて斎藤が言葉を失っていると山崎が話を戻すように声を掛けた。
ハッと我に返った斎藤は咳払いを一つする。
「南雲、風紀委員会の会議が始まるぞ」
「今日は俺パスします。折角の妹との再会なんで」
「妹?」
斎藤はチラリと薫と同じ顔をした少女を見た。
「ゆ、雪村千鶴と申します…薫がいつもお世話になってます」
千鶴はぺこりとお辞儀をする。
斎藤は名前を聞いてハッと目を見張った。
「君が…雪村…千鶴、か」
「はい、あの…どうかしましたか?」
「いや、俺は斎藤一と言う。山崎くんと同じクラスだ宜しく頼む」
「斎藤先輩ですね。よろしくお願いします」
「あーもうやってられない!斎藤先輩会議なんでしょ、ほら行きますよ」
「ちょっ…南雲っ!」
沖田との口喧嘩に耐えかねた薫がいきなり立ち上がったかと思うと斎藤の腕を引いて屋上を後にする。
沖田は勝ち誇った顔で小馬鹿にするようにその背に手を振った。
バタンと扉が閉まると一瞬だけ静まりかえる。
「千鶴の兄貴ってなんかすげーな」
平助は呆然と二人が出て行った扉を眺める。
その言葉に鈴鹿はコクコクと頷いた。
なんだか申し訳ない気持ちになり千鶴は軽く頭を下げた。
「すみません…ご迷惑をおかけして。平助くんもお千ちゃんもごめんね」
「やだ、千鶴ちゃんが謝ることないわよ。気にしないで」
「そうそう千鶴は悪くないって」
「ありがとう…」
二人に励まされ、顔を上げた千鶴の頭を沖田がよしよしと撫でる。
「まぁ、千鶴ちゃんがこんなに可愛いからいじめたくなるってのもわかるけどね」
「沖田さん、お嬢様に気軽に触れないでください」
山崎はさりげなく沖田の手を払いのける。
にわかに二人が睨み合うが千鶴はそれに気付かなかった。
「千鶴ちゃんも大変だね、シスコン兄にお目付け役までいてさ」
「や、山崎さんは私を心配してくださってるんです…薫も…多分、ですけど」
沖田の言葉に千鶴が小さく反論した。
根が真面目なのか自分の事で誰かが悪く言われたくないようだ。
「ふぅん…そういうとこ少し近藤さんに似てるかな」
ポツリと呟いた言葉は山崎の耳にだけ届いた。
その瞬間、沖田が千鶴を気に入ってしまった事に気付く。
お嬢様の新生活は早くも波乱に満ちている…そんな気がしてならない山崎だった。
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片割れ登場、あれ?なんだかまるで沖田さん寄りみたいだ…(苦笑)
登場人物が増えるとどうも難しいです、文才が欲しい…
山崎さんをそろそろ活躍させたいものです。