Novel 1st

□背伸びした距離
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休日の朝

「で、その格好はなんだ」

開口一番に先生が言った。

「どうですか?大人の女って感じしませんか」

私はクルリと一回転する。

今日はいつもより大人っぽい服装にしてみた。

髪も巻いて軽くウェーブを効かせ、うっすら化粧もしてヒールとかも履いてたりする。

もちろんホワイトデーに先生に貰った香水も忘れてない。

「ふぅん…なかなか良いんじゃねぇの?」

「エヘヘ〜、でしょ?」

「あんまりヘラヘラしてっと台なしだけどな」

「またぁ〜先生はすぐそういう」

私がふて腐れても先生はお構いナシって感じに笑ってる。

なんかいつもの先生に戻ったみたいでちょっと嬉しい。

私たちは映画館迄の道のりを他愛もないおしゃべりで過ごしていた。

そんな時…

「龍太郎さん?」

先生を呼ぶ女人の声がした。

「あ、やっぱり龍太郎さんね」

ショートヘアが良く似合うキャリアウーマンといった感じの綺麗な女性が近づいてくる。

「先日はどうもありがとうございました」

意味ありげな事をその人が言った。

「いえ、こちらこそすみませんでした」

先生もサラリと答えちゃってるし…なんだか入り込めない空気にモヤモヤする。

まったくの勘でしかないけれど最近の先生の悩みにこの人が関わってる気がしてならない。

これが女の勘てヤツだろうか。

私の気も知らずに先生はその人と話し続ける。

なんか…やだな。

ふとその女の人が私の方を見た。

「可愛いらしい子ね」

あ…なんか子供扱いされた気がする。

「お出かけのところお邪魔してしまってごめんなさいね、それじゃ」

女の人がいなくなっても私の中のモヤモヤは消えなかった。

先生を見ればなんとなく気まずそうな顔をしてる。

「悪かったな、今のは…」

「先生って、あーゆー人が好みなんだ?」

「は?何言ってんだお前」

「…今日はもう帰る」

何してるんだろう私。

先生を無視して、自分勝手で…本当余裕ない。

今日は先生に元気になって欲しいって思ってたクセに。

「ちょっと待てヒトミ」

先生の声を無視して来た道を戻る。

「ったく何怒ってんだよ。あの人はだな」

「聞きたくありません」

「いいから聞けって!」

先生が私の腕を掴んで振り向かせる。

「あの人、先生の事名前で呼んでた。」

先生より先に口を開く。

「だから事情があんだよ」

「そんなの…知らないもん」

「だからオレ様が今言おうしてただろ」

なんだか先生と目が合わせられない。

「…わかった。オレん家でちゃんと話をしよう、その方がいいだろ」

私はコクリと頷いた。
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