A Dog's Story

□27.
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アルテミス当日。

今日のために前日からママが張り切ってコーディネートした服を着るユナちゃんは、やっぱり可愛いな〜。
セーラーカラー風のブラウスの下にはレース付きのインナー、フェミニンなデニスカ。それにミニリュックが加わることで、ママの言う【ガーリーなプチマリン】になっている。
更にママが言うには『インナーにビビッドカラーが今年っぽいのよ!』らしい。

まあ、それはともかく。
結論を言えば……こんな可愛い飼い主さんに恵まれたボクって、ホントにつくづく幸せな犬だと思うんだ!



「だ〜れだ!」

「わあっ!?」
「「え!?!?」」



大会が行われる、お台場ビッグスタジアム。
見渡す限り、人人人!バスや電車は絶対に混むだろうから、って結枝さんの運転する車で会場までやって来たボクとユナちゃんとママ。
結枝さんはボク達を送ってくれたついでに、これからトキオシアで日用品や夕ごはんの材料とかを買い出しに行くそうだ。で、アルテミスが終わったら、またビッグスタジアムまで迎えに来てくれるんだって!

それにしても……ここにいる、ほとんどの人達は交通機関を使っているんだろうなぁ……うん。ボク達、結枝さんに送ってもらって正解だったみたいだ。

ユナちゃんとママと一緒に、スタジアム入り口へと向かいながらしみじみ考えていると……そのユナちゃんが「あっ!」と声を上げて不意に走り出したものだからビックリ!
ママが声をかけるよりも先に、慌ててボクもユナちゃんを追いかけて横に並ぶ。が、ユナちゃんがどこに向かっているのか、すぐにボクは理解した。
ユナちゃんの向かう先にいたのは、バンくんだった。アミちゃんとカズくんも一緒だ。
アングラビシダス以来の再会に嬉しい気持ちになるボク同様、ユナちゃんもバンくん達の背後に駆けつけると「だ〜れだ!」と両手でバンくんの目を隠した。当然バンくんはビックリ声を上げて、アミちゃんとカズくんも素っ頓狂な声と共にボク達の方を振り返ってくる。



「こ、この声は…ユナ!?」


すぐに正解を出したバンくんに、ユナちゃんは笑顔のまま両手をどけた。
するとアミちゃんとカズくん同様、バンくんも勢いよくこっちを振り返ってくる。


「久しぶり、バン君!」
「あ…う、うん。」
「アミちゃんもカズ君も、元気だった?」
「え?あ、…えぇ。」
「お、おう…。」


突然現れたボク達に相当ビックリしたのか、バン君達は顔を見合わせている。


「アミちゃんとカズ君も出場するの?」
「え、えぇ。私達、バンをサポートするの。ね、カズ?」
「あ、あぁ…。」
「そっか〜!頑張ってね!」


にっこり笑ってエールを送るユナちゃんに、カズくんがちょっぴり頬を赤らめる。と、すかさずアミちゃんがカズくんの腕を小突いて何か目配せした。そしたら、それに気づいたカズくんは急にハッとなってバツが悪そうに横を向いてしまう。
2人とも、どうしたんだろう?と、ちょっぴりボクが不思議に思う一方、ユナちゃんはアミちゃんとカズくんの様子に気づかなかったようでバンくんに向き直っていた。


「アングラビシダス以来だね。」
「…うん。」
「あれから何度かバン君の家に電話したんだけど、いっつもタイミング悪くて話せなかったもん。」
「ご、ごめん……その、アルテミスに向けての特訓が忙しくて……母さんから、ユナが電話してきてるって何度か聞いてたんだけど……えっと、あの…。」


何だかとっても歯切れの悪いバンくんを見て、ボクはまた不思議に思ってしまった。ふと、アミちゃんとカズくんを見てみれば、2人もどこか気まずそうな様子だ。
バンくんもカズくんもアミちゃんも、どうしちゃったんだろう?気分でも悪いのかな?だとしたら、これからアルテミスが始まるのに大丈夫なのかな??
ボクがだんだん心配になってくる一方、困ったように視線を俯かせるバンくんに気づいたユナちゃんも慌てて首を横に振る。


「いいの!気にしないで?」
「……あ…。」
「今度の相手は世界だし、優勝目指すなら並以上の特訓が必要だよね!」
「……う、うん…。」


ユナちゃんにアイヅチを打つバンくんだけど、その顔はずっと下を向いたままだった。
が、やがてバンくんの顔がスッとユナちゃんの方に向く。どこか迷っているような雰囲気で、バンくんは口を開いた。


「あの、さ……ユナも…。」
「!?ちょ、ちょっとバン…!」


アミちゃんが慌てて何か言おうとするのを遮るように、バンくんはユナちゃんにこんな質問をした。


「ユナも、イノベーターなのか?」
「え?」


質問を受けたユナちゃんはキョトンとなり、ユナちゃんの足元にいるボクもキョトンとなる。
イノベーター?あれ…何か、どこかで聞いたことがあるような……う〜ん…?


「イノベーター?」
「「「……。」」」
「イノベーター……って、何?」



ごくっ、と緊張したような顔でユナちゃんを見つめていたバンくん達。……でも、分からないものは分からないのでキョトンとしたまま首をかしげるユナちゃん。

そんなユナちゃんの様子に、バンくん達もまた戸惑うように顔を見合わせていた。





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