A Dog's Story

□26.
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「マコちゃんもアルテミス、観に行くんだ!」
「当ったり前じゃん!郷田さんと仙道さんが出るんだよ!?あと海道君もでしょ!?観に行かない方がおかしい!」



1日1日とアルテミスが迫っている、ある日の夕方。
ボクはユナちゃん、マコちゃんと一緒に散歩をしていた。

今日、いつもよりずっと早い時間に学校から帰ってきたユナちゃんはマコちゃんと一緒だった。どうやら遊びに来たようで、ママもマコちゃんを歓迎してお菓子とジュースを用意した。
ユナちゃんの部屋でお菓子を食べながらお喋りを始める2人をよそに、ボクはユナちゃんのベッドの上でずっとウトウトしていた。そんな感じで、それぞれが気ままに時を過ごす中。空が赤く染まりだした頃、ふとユナちゃんが『そういえば、チップのお散歩に行かなきゃ!』とボクの日課を思い出してくれて、マコちゃんもマコちゃんで『あたしも、そろそろ家帰らないと!あんま遅くなると、親がうるさいんだよね〜。』と帰宅時間になった。

だから今、こうしてボクとユナちゃんは、マコちゃんを駅まで見送りするついでに散歩もしてるんだ!



「この前のアングラビシダスに行けなかった分、アルテミスは何が何でも行ってやるんだから!」


駅までの道のりをのんびり歩きながら、マコちゃんが拳を握りしめて力説する。


「仕入れた情報によると、郷田さんはレックスって伝説のLBXプレイヤーのパートナーとして出場するみたいなのよ!そんなスゴイ人のパートナーとか、やっぱこうグッとくるわよね〜!」
「レックス、って……アングラビシダスを主催していたあのレックスさん!?」
「ん?アングラビシダスって、あの人が主催だったっけ?」
「もう〜!マコちゃん、番長さん関係には詳しいのに!」
「いっつも言ってるでしょ?あたし、番長とか人様の恋愛云々以外にはぜーんぜん興味ないって。」


わいわい、と言い合いながらも楽しそうに会話するユナちゃんとマコちゃん。2人を見ていると、ボクまで楽しい気持ちになってくる。



「ユナは海道君の応援、誰と行く予定?」
「チップとママ!」
「へ〜!お母さん、来るんだ?」
「うん!せっかく日本で世界大会やるんだから行かなきゃ損、って言ってた。マコちゃんは?」

「あたしは姉さんと行くよ〜。」
「そっか〜!……あれ?でも、マコちゃんのお姉ちゃんってLBXより俳優さんとかが好きじゃなかった?」

「北米LBXチャンピオンのジョン・ハワードって人が目当てなんだって。何か俳優業もやってるみたいでさ〜。『ジョン様のサイン、絶対ゲットするんだから!』って騒ぎっぱなしなのよ、ここ1ヶ月近く。」



「うるさくって仕方ないわよ、ったく〜!」と肩をすくめるマコちゃんを見て「マコちゃんのお姉ちゃんらしいね〜!」って笑うユナちゃん。そしたら、すぐさまマコちゃんから「笑いごとじゃないんだから!」と苦笑いが返ってくる。
その後もアルテミスの話題で盛り上がりながら歩き続けていると、駅前についた。夕方ということもあってか、昼間よりずっと人がたくさん行ったり来たりしている。


「ユナ、人多いし、ここまででいいよ!何か、ごめんね?わざわざ送ってもらっちゃって。」
「気にしないで!チップの散歩もできたし、今日はありがとう!」
「あたしこそ!じゃ、また明日。学校でね!」
「バイバーイ!」


改札に向かって駆け出していくマコちゃんに手を振るユナちゃん。
マコちゃんも軽く手を挙げながら軽やかに人混みの中に入っていき、すぐその姿は見えなくなった。


「よし、私達も帰ろっか!」


足元のボクを見下ろしてそう言うと、ユナちゃんはたった今来たばかりの道を戻るべく歩き始める。
リードに引かれたボクも、そのままユナちゃんについていくべく足を動かす……はずだった。誰かに見られている、と気づかなければ。
ホントに何となく、だけど……不意に感じたのだ。誰かの視線が、ボク達の方に向けられているような妙な感覚を…。


「ん?どうしたの、チップ?」


突然立ち止まったボクに、ユナちゃんも足を止める…けど。それでもまだ、ボクは誰かに見られているような気がしてならない。
不思議そうにボクを見下ろすユナちゃんに申し訳なく思いつつも周囲を見回す……が、夕方の駅の人混みから、ボク達を見ているであろう誰かを見つけるのは不可能だった。


「もう〜、しょーがないな!疲れちゃったの?」



結局、しびれを切らしたユナちゃんに抱っこされ、すぐにボク達はこの場から去ることになったんだけど……一体、何だったんだろう?

ボクの勘違い、だったのかな?





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