A Dog's Story

□18.
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「そういえばユナの知り合いの人は、1回戦誰と当たったの?」


カズくんとリュウくんの勢いが少しずつ落ち着いてきたところで、ふと思い出したようにバンくんがユナちゃんに聞いてきた。
質問されたユナちゃんも視線をバンくんに向けて口を開く。


「えーっと、確か……。」
「ユナ様。」


が、ユナちゃんが何か言う前に違う人の声がそれを遮った。
バンくん達には馴染みがないだろうけど、ボクとユナちゃんにとっては馴染み深いその声。間違いなくジンくんの執事さんのものだ。
ユナちゃんが声のした方を振り返れば、やっぱりそこにはジンくんと執事さんが立っていた。


「あ、ジン君!」
「ユナ様、どうかお1人での行動はお控え下さい。せめて一言、お声掛けを。」


執事さんの注意で、ユナちゃんもボクもジンくんとの約束をハッ!と思い出す。そうだ、大会が始まる前にジンくんに「1人で行動するな。」って言われてたんだっけ……バンくん達に会えたのが嬉しくて、すっかり忘れてた。
目の前のジンくんはいつものようにポーカーフェイスだけど、きっとボク達の忘れっぽさに心の中では呆れているんだろうなぁ……そう思ったのはボクだけじゃなかったみたいで、ユナちゃんもバツが悪そうな顔になっていく。


「ごめんね、ジン君……。」
「「「海道ジン!?!?」」」



ユナちゃんの声に重なるように、バンくん、アミちゃん、カズくんが大声を出したのはこの時だった。
ユナちゃんがシュンとしている一方、バンくん達はビックリしている。リュウくんとミカちゃんもそれぞれ反応こそ違うけど、ジンくんのことを凝視していた。
まるでオバケでも見るような目でジンくんを見るみんなに、キョトンとなるユナちゃん。だけど、ボクも同じくユナちゃんの腕の中でキョトンとなってしまう。

バンくん達、どうしてこんなにビックリしてるんだろう?
もしかして、海道ジンって名前ってスッゴク珍しいのかな?

ユナちゃんもボクと同じ疑問を感じたのか、首を捻りながらバンくんに話しかけようとした……けど。ユナちゃんよりバンくんの口が開く方がちょっぴり早かった。



「もしかしてユナの知り合いって、海道ジン!?」
「う、うん。そうだけど……バン君、ジン君のこと知ってるの?」
「知ってるも何も、海道ジンはこの前、私達のクラスに転校してきたばかりよ!」


バンくんに代わるように答えるアミちゃん。
それを聞いたボクとユナちゃんが、今度はビックリする番だった。


「え!?転校って……じゃあ、もしかしなくてもバン君達ってミソラ二中生!?」


目を丸くするユナちゃんの腕の中で、ボクも目を白黒させてしまう。
ユナちゃんと違って、ボクはバンくん達がミソラ二中に通っているのを知ってたけど……でもまさか、ジンくんがバンくんやアミちゃんと同じクラスだったなんて!


「ジン君、バン君達のこと知ってたの?」
「……。」


どうして教えてくれなかったの?と戸惑うようにジンくんを見るユナちゃんを、ジンくんはチラリと一瞥したけど、すぐに目をそらしてしまった。
そんなユナちゃんとジンくんの様子をバンくん達はポカンと眺めている。が、不意にアミちゃんが我に返ったのか、ユナちゃんへと向き直った。


「あの、つかぬことを聞くんだけど…ユナって海道ジンと知り合いなのよね?」
「うん。」
「どういう関係なの?親戚、とか?」


アミちゃんからの質問を受けたユナちゃんは途端にほっぺを少し赤くして、はにかむ。



「ジン君はね……その、あの…!」
「ジンお坊ちゃまとユナ様は婚約を結ばれております。つまり許婚同士という関係です。」

「あ、そうなんですか。婚約者……え、えええええええ!!!??」



ユナちゃんをフォローするように丁寧な説明をしてくれた執事さんに、すんなり納得しかけるアミちゃんだったけど。言葉の途中でコンヤクシャって関係がどういうものか思い出したのか、素っ頓狂な声を上げた。
でもビックリしたのはアミちゃんだけじゃなかったみたいで、バンくんやカズくん達も目を見開いている。


「ユナと海道ジンが!?」
「こ、婚約者だとーー!?!?」


結構な衝撃を受けているバンくん達に、ユナちゃんは照れ笑い。
ジンくんはジンくんで興味なさそうにバンくん達に背を向けると、スタスタと歩き去っていく。


「ユナ様、私達も参りましょう。」
「はーい。」


お待ち下さい、坊ちゃま!とジンくんを追う執事さんを横目に、ユナちゃんはバンくん達を振り返る。そのバンくん達はというと、まだ衝撃が抜けきれていないのかフリーズ状態のままだった。
が、ユナちゃんはそんなバンくん達の様子を気にせず…というか様子に気づくことなく、にっこり笑顔を見せる。


「バン君!1回戦の人、すっごく強そうだけど、でもバン君なら絶対勝てるよ!自信持って頑張って!!応援してるから!」



しっかりとエールを送り終えると、ユナちゃんは満足そうに口元を緩めたまま小走りを開始。
もちろん向かうは、数メートル先で立ち止まって待ってくれているジンくんと執事さんのところだった。

何はともあれ、ユナちゃんが満足しているならボクも大満足!

バンくん、アミちゃん、カズくん。
3人とも再会できて、嬉しかったな〜!





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