半妖姫〜第一部〜

□二十二章
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元治元年七月。

池田屋事件以来、千鶴さんの外出が許される回数は日に日に増えていきました。そして、私も同じくでした。
池田屋事件の際、私達の働きを土方さんは認めて下さったようで、その結果が今の状況のようであります。これまでずっと屯所から出ることを許されなかったのが嘘のように、誰かにさえ断れば私は京の町へと繰り出せるようになったのです…が。必要のない限り、私は自ら進んで外へ出ようとは思いませんでした。妖の里に居た折、人づてに外の世界の話を聞いては胸躍らせていましたが…しかし、菊本達の言っていたことは正しかったのです。里の外はとても恐ろしい世界でした。この半年近くで身をもってそれを嫌と言うほど味わいました。
もちろん、人間の中でも親切な方々がいる…ということもこの半年で少しずつ理解してはいますが……どうしても恐い出来事の方が圧倒的に多いため、屯所の外へ一人で出かけるなど私には到底無謀なことに思われていたのです。このような考えをもしミケに知られれば「まったく、あんたという娘は!」とまたお説教を受けてしまうのかもしれませんが……こればかりはどうしようもないことでありました。


「優衣さん。荷物、半分持ちます!」
「……。」


なるべくなら外出は控えたい私でしたが、今日はそういうわけにはいきませんでした。なぜかと言いますと、井上さんよりお夕飯の材料のお使いを頼まれてしまったからです。彼の言いつけを断ることなど、これもまた私には到底無理なことでした。
そういう理由があった上で、こうして今、私は原田さん率いる十番組の巡察に千鶴さんと共に同行している次第なのです。ろくに地理の分からない私への配慮として、井上さんが本日巡察を予定していた原田さんへと事情を説明して下さったのであります。


「俺も持とうか?優衣。」
「……。」


買った物を半分持った千鶴さんを見て、原田さんも申し出て下さいますが…とんでもないことです。只でさえ、巡察の最中に途中途中で足を止めさせてしまうという迷惑をかけているというのに、更には荷物を持たせるなど頼めるはずがありません。
いいえ、という意味を込めて首を横に振ると。原田さんはなぜだか少し残念そうな顔になりました。しかし、すぐに己が務めの最中であるということに気がついたのか、口元に苦笑いを浮かべ「疲れた時は遠慮せずに言えよ?」と言うだけに留まりました。


「あの、原田さん。」


荷物を半分持って下さっている千鶴さんが、ふと原田さんに向けて問いかけたのはこの時のことです。


「新選組は京の治安を守るために、毎日、昼も夜も町を巡回しているんですよね?それで……、具体的には、どういうことをしているんですか?」


その問いに対し、原田さんはすんなりと答えました。


「ま、ピンからキリまで大小様々だな。辻斬りや追い剥ぎはもちろん、食い逃げも捕まえるし喧嘩も止める。」
「食い逃げ……。」
「商家を脅して金を奪おうとする奴らも、俺ら新選組が取り締まってるよ。」


その言葉に、私は少し意外さを感じました。思っていたよりも地味な仕事が多いように思われたからです。そうやって考えてみると、あの池田屋事件は彼らにとって本当に本当の大捕り物だったに違いありません。


「あ!」


原田さんの話に私が一人納得していると。不意に千鶴さんが道の先に視線を向け、声を上げました。


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