「…ふう」

1日の疲れを軽減するには入浴に限る。座り仕事でガチガチに張った肩が、温かな湯でほぐれ心地よい。
年寄り臭く言えばまさに

極楽
極楽

だ。


今日は何かと騒がしい副官が、現世に出向いているため眉間の皺も浅かった。

あいつは、隊長、隊長騒がしいからな。


「隊長〜」

「幻聴かよ」
俺も疲れてんな。今日は早めに寝るか。

「隊長〜」
「!」

ドタバタと廊下を駆ける足音がする。

「…まさか」
あいつは、明日帰還のハズだが。

ズバーン

と、勢いよく浴室の扉がスライドする。
隠すものも隠さず呆然と、松本を見上げる。
「お前…なんで」
「早く片付いたので、1日帰還が前倒しになりました」

ニッコリ

微笑まれても。この状況で笑える訳がない。
「……そうか。報告は明日聞くから」
「そうして下さい」
「……今、俺は入浴中…なんだが?」
「いやだぁ〜分かりますよ。仕事してる様には見えませんから」
「いや、そうじゃなくて」

早く出て行って欲しいのだが。


「間に合って良かったです
「は?」
「じゃーん!現世のお土産〜入浴剤です。これを入れれば、血行促進!1日の疲れも飛びますよ」

新たな疲れの原因が、目の前に居るんだがな。

「それを…入れるのか?」
「スゴく甘い香りなんですよ!苺ミルクの香りでピンク色〜なーんと今ならキラキララメ入り」
「いらねえ!」
日番谷の即答に頬を脹らませる。
「あ!」
「間違って開けちゃいました!」
そんな間違いあってたまるか!
「お前はガキか!」
甘い匂いが大嫌いな日番谷にとっては、苺ミルクの香りなど、かえってストレスがたまりそうだ。
遠慮したい。
入れる、入れないの攻防戦で松本から入浴剤を取り上げた。

「キャ」
「おい!」

グラつく松本を支えようと手を伸ばすが

ばっしゃーん

日番谷に覆い被さる形で、死覇装のまんま落ちて来た。

同時に

フワァーンと、甘い香りが広がり湯船がミルキーピンクにそまる。
「……お前な」

呆れて言葉が続かない。

「ごめんなさい」

愁傷に呟くが、入浴剤をどさくさで攪拌する姿に反省の色はない。
バカな女にはお仕置きが…必要だな。
松本の細い顎を掴み柔らかな頬をねっとりと舐め上げる。

「なっなっなっ」

これで案外純な質だ。顔を真っ赤にして、バシャバシャと端に逃げようとする。日番谷は許さず、二の腕を掴む。

「苺ミルクなんだろ…甘いかもと思ってな」「有り得ないですよ〜隊長は子供ですか!」
お前にだけは言われなくねぇ。

「………甘かったですか?」
「ああ」

どちらからともなく唇を近寄せて。
甘い甘いキスをする。
はじめは触れるだけ。次は少し大胆に。そして、貪る様な激しい口付けに。


夜は長い。


甘い夜がふける。






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