僕の記憶の扉
□第∞章
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電話
ルルルルルー、ルルルルルー、ルルルルルー。ガチャッ。
三回目の呼び出し音で電話がつながった。
「もしもし・・・。」
久しぶりに聞く声だった。懐かしさがこみ上げる。この気持ちはどう表したらいいのだろう。
「・・・。」
俺は無言だった。電話の向こうで不振そうにしているのがわかる。
「もしもし・・・?」
「こんにちは。お久しぶりです。覚えていますか?先生・・・。」
「・・・?」
わかっていないらしい。別にそれでもいいのだが、わかっていたほうが話が進めやすい。もう少しヒントを出すことにした。
「小学校のときに担任をしてもらいました。」
反応があった。
「・・・・・・・。もしかして・・・。―――。」
「それ以上は言わないでください。色々と事情があって。でも、先生が思っている人物と俺とはきっと同一人物です。」
「どうして・・・。何があったんだ?」
「色々と・・・。」
なおも言い募ろうとする先生を遮って用件を伝える。
「先生よく聞いてください。一度しか言いません。」
俺は話した。あったことの全てを。感じたことを。見たこと、聞いたことを。
「・・・。」
話し終わったとき、向こうからは音が聞こえなかった。そして、先生も無言だった。
俺は、最後にこう言った。
「これは全て真実です。そして、俺は舟の上で・・・死にました。全ては、仕組まれたことだったんです。」
聞いたことを信じたくない様子の先生が、言葉を捜しながら聞いてくる。
「・・・家族に・・・伝えたいことは・・・?」
俺は笑った。
「いいです。もう、かなり時間が経ってるし、家族も理解していると思うので。事の次第を。」
「そ・・・そうか・・・。」
「俺、最期に先生と話せてよかったです。誰かにこの事を知っていてほしくて。有難うございます。・・・さよなら・・・先生・・・・・・。」
ツーツーツー。
電話は切れた。
最期の時間を使い果たした男は、空へと昇っていった。