僕の記憶の扉

□第二章
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 一、翔
 
 風の色は時と共に変わる
 晴れ渡った日は 蒼
 夕焼けの時は 赫
 
 今は 緑
 
 風の色は時と共に変わる
 僕らのように

   ◇   ◇   ◇
 
「今の風は赤色だ。」
 また言ってる。翔は毎日こんなことを言う。だから、あまり友達がいない。本当は、いいヤツなんだけど。その、数少ない友達の中に私も入っている。幼稚園のころからの長い付き合いだし。
「翔、もう行くよ!」
 ずっと空を見上げていた翔が振り向く。
「木香、もう少しだけ待って。」
「翔!私、帰るからね。置いていくよ。」
「えっ!?あ、待って、木香!」
 翔が慌ててこちらへ駆けてくる。その姿に背を向けて空を見る。そこには夕日がある。きれい・・・。思わずため息が出た。空は燃えるような赤。
 やっと翔が追いつき、二人で並んで歩く。二つの影が足元から長くのびる。でも、私のほうが翔より少し影が長い。翔はそれが悔しいみたいで、この前も、
「絶対、木香より大きくなってあの夕日も追い越してやるんだ。」って言ってた。

 今日も一日疲れた。ランドセルを机の上に置き、ベットに寝転がる。窓から入ってくる夕日の光。いつも変わらないこの赤色が好き。二年前のあの日、お父さんが夕日の美しさを教えてくれた。初めて夕日の美しさを知ったとき、心が洗われるような気がした。そして今日まで、夕日を視なかった日は一度もない。お父さんに感謝してる。
 そういえば、翔にはお父さんがいない。
 翔は今、お母さんと二人で暮らししている。翔のお父さんは去年亡くなっている。でも、翔もお父さんから教えてもらったことがある。それは、風の色を視ること。さっき翔が言っていたのも、このこと。
 二人がそれぞれお父さんに教えてもらった、「夕日の美しさ」、「風を視ること」は違うことだけど、実は同じ。どちらも、そのものの本当の姿を視ている。本当の美しさを視ている。

   ◇   ◇   ◇

  キーンコーンカーンコーン

 三時間目。今日は自習。皆、喋ったり歩いたりしてる。授業中なのに。私はさっき配られたプリントをしている。前の席の翔を見るとプリントの裏に何かを書いていた。持っていたペンで翔をつつく。
「翔、何を書いてるの?」
「詩。書くの好きなんだ。」
「ふーん。そうなんだ。意外!」
「は・・・?」
「気にしない気にしない。それより、それ、見せて。」
「あ・・・。うん、いいよ。はい。」
 翔から手渡された紙を見る。

 「小さな

  この世界の  
  小さな小さな
  モノたちよ
  
  大きく生きよと
  切に願う
 
  この世界の
  小さな小さな―――
  モノたちよ」

「すごい・・・。翔って詩を書く才能があるんじゃない?」
「?どうした?木香。」
 この声は、後ろの席の涼だ。翔の少ない友達の一人で、私の友達でもある。
 後ろを向いて涼に言う。
「涼。プリントしたら?落書きばっかりしてないで。それより、翔を見習って詩でも書いたほうが勉強になると思うけど。」
「お、俺はちゃんとべんきょうしてるぞ!」
「じゃあ、プリント見せて。」
「それは、ちょっと・・・。」

 
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