僕の記憶の扉

□第一章
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 小道

何だか不思議な道だ。ここを見つけたのは三日前。学校の帰りにいつもと違う道を通って帰ったらこの道を見つけた。校区内ぎりぎりの所にある小道を。昨日、地図で調べたけれどどこにものっていなかった。今、ここにいるのは、ただの好奇心。でも・・・何故か嫌な予感がする。何だろう・・・。まぁ・・・、いい。それより、俺が居るこの通りには、あの小道がある。そして、人通りが多い。今も、小学三年生ぐらいの子が俺の後ろを走って行った。でも・・・皆、小道には見向きもしない。どうしてだろう。
 ・・・!・・・もしかして、見えていない?・・・まさか・・・ね・・・・・・。でも、ありえない。俺と、俺の後ろに在る小道が見えていないなんてことは。こんなことを考えていたら急に背筋が寒くなった。こんなことを考えていたら、俺が本当に見えなくなってしまう気がして怖かった。いや、見えなくなるんじゃない。もう既に見えていないかもしれないのだから。俺は怖くなって、走って帰った。
 家には誰もいない。晩御飯を食べて、風呂に入った。今は、午後八時だ。父さんと母さんが帰ってくるのは十一時。まだ、三時間もある。俺は早く寝ることにした。いつもより三時間早かった。
 ――――目が覚めた。朝?外は暗い。今、何時だろう。父さんと母さんが帰ってきたのは知ってる。時計を見ると、午前一時四十五分。まだ、夜だ。いつもより早く寝たからこんな時間に目が覚めたのかもしれない。でも、幾ら何でも早すぎる。まあ、いい。布団に入りもう一度寝ようとした。が、目がさえて眠れない。起き上がり、上着をはおった。この時期の夜は、とても冷える。そして、そっと部屋を出る。そのまま玄関までいき・・・。俺はどこへ行こうとしているのか。答えは簡単だった。そう、あの小道だ。
 外へ出ると、何も見えなかった。まだ暗さに目が慣れていないからだ。目が慣れるまで、少し待つ。そして歩き出した。どんどん速さが増していく。小道の近くまで来たときには小走りになっていた。立ち止まる。足音が止み、音が消えた。いや、遠くで犬が鳴いている。そして、声は聞こえなくなった。本当に音が止んだ。俺は小道へと足を踏み出した。
 ここも何の音もしない。静まり返った道を俺は一人で歩く。歩きながら考える。このまま道を進めば、もう戻れなくなるかもしれない。それで、いいのか。べつに、いい。この先へと進めるのならば。そして、思う。母さん、父さん、友達・・・。一人一人の顔が浮かんでは消える。
でも、決めた。もう戻らない。絶対に。この先に何があったとしても。何が起こったとしても・・・。
 いきなり明るくなった。道が開けた。眩しい。昼・・・?俺が歩いている間に朝になったのか?いや、それはない。そんなに歩いてはいない。
 ここは今、昼のようだ。
 何だろう。前にここへ来た事がある気がする。この道。
この建物。見覚えがある。気付くとどこかへ向かって歩いていた。
 ・・・・・・。ここは、俺の家だ。見覚えがあると思ったのは、家の近くだったから。無意識に家のドアを開ける。
「風唯、お帰り」
 母さんの声だ。俺は家の中へ入っていく。ここで生きていく。
 玄関へあがる。これからの生活に希望を抱いて。
 ―――あれから一年。俺は中学一年生として元気に学校へ通っている。ここは前の場所と同じに見えるけど、違う。皆優しいし、楽しい。前の学校では、毎日喧嘩したり、いじめられてた。友達も、一人や二人。でも、変わった。あの日、こっちの世界に来てからは。
 

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