僕の記憶の扉
□プロローグ
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一、時雨
「あなたは私の何だっていうの?あなたは私の何を分かってるっていうの?」
思わず叫んだ言葉に、はっとする。お母さんが怒った顔でこっちをにらんでいる。
「それが、母親に向かって言う言葉?謝りなさい。」
お母さんが言った。何よ、そっちこそ。
「そのままよ。さっき言ったとおり。あなたは私のこと、何も分かってない。だから、謝りは、しない。」
謝ってなんかやるもんか。私のこと、何も分かっていないのに。むしゃくしゃする。私が悪かったのは、分かってる。だけど、お母さんは、私が分かってることを言われるのが嫌いだってことを分かってない。だから、何回でも、同じ事を言ってくる。それが、嫌。それに、さっきの言葉、あれだけのことでいちいち怒らなくていいじゃない。 もう嫌!こんな家、出て行ってやる!玄関へと行き、靴をはく。でも、急いでいたせいで頭を壁にぶつけてしまった。
痛い! ・・・・・・・・・・・・え・・・?
何かが頭の中ではじけた。どう言えば・・・。そう、シャボン玉!シャボン玉がはじけた時のように。
「・・・・・・・。ここは、どこ・・・?あなたは、誰・・・?」
「何度言ったら分かるの!それが、母親に向かって言う言葉?」
「え?何?・・・。私は何でこんな所にいるの?・・・私・・・?私、は、誰・・・?」
思い出せないここがどこなのかも、なぜここにいるのかも、自分が誰なのかも。さっきまでは、分かっていた、はずなのに。
言葉が、口をついて出る。
「帰らなきゃ。私の家に。早く・・・帰らなくちゃ・・・。」
ふらふらと歩いてドアへと向かう私を女の人が引きとめる。
「だめ、行っては。」
なぜそんなことを言うのかと思いながらも足を止める。と、女の人が私を抱きしめた。
「?」
何も分からない私は、されるままになっていた。自分を抱きしめている女の人の顔を見ると、そのひとは、泣いていた。そして、泣きつかれたのか、ぽつり、ぽつりと話始めた。私を抱きしめたまま自分に語りかけるように・・・。
「あなたは、私の子供ではないの。そう、捨て子だった。あなたを見つけた日は雨で、私は下を向いて歩いていた。そして、ふと横を見ると、あなたがいた。生後十ヵ月くらいだった。とてもやせていた。私は可愛そうになって、家に連れて帰ろうと思った。あなたを抱き上げたとき、今まで激しく降っていた雨が止んだ。そしてそのまま家へ連れて帰り、今までずっとあなたを育ててきた。だから、あなたは私の子ではないけれど、ずっと自分の子の様に思っている。
これまでも、今も、これからもずっと。」
「おかあ・・・さん・・・。私は・・・、誰?」
女の人が、―――いや、お母さんが、私の目を見る。
「あなたは・・・。あなたの名前は・・・時雨。」
◇ ◇ ◇
二人の後ろの窓から、空に出た虹が見える。二人を優しく包み込む光。
そして・・・