僕の記憶の扉

□プロローグ
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 二、緑の星

  窓から一筋の光が差し込んできた。俺はその光に惹かれて立ち上がる。窓の方へ歩いて行って、ふと、今まで何をしていたのかと思う。机の上を見ても、部屋の中を見てもこれといった跡はない。考えても分からない。何をしていたのだろう。寝ていたのか。いや、違う。起きていたはずだ。だってベットは奇麗だし、誰も寝ていた形跡はない。それなら何を・・・・・・。
 今、気がついた。俺は、さっきからの数分間の記憶しかない。俺の名前・・・・・・。
・・・・・・。なんだったんだろう。そういえば何も分からない。自分自身のことさえも。今、俺に分かるのは、ここが俺の部屋だということと、―――部屋のドアの取っ手を回す。・・・開かない。―――俺はこのドアからは外へは出られない。部屋を見回す。窓だ。近寄って開けてみる。硬い。ということは、俺はこの部屋から出られないということか。窓から外を見るとさっきの光に気がついた。あれは・・・星?・・・いや、違うだろう。大きいし、緑色だ。それに、とても明るくてよく見える。俺は今、記憶が無いはず。でも、あの光・・・。何故か心が落ち着く。そうだ、あの光、見覚えがある。
・・・・・・あれは・・・・・・。
そう、あれは九年前の俺が七歳のとき。母さんの怒られて泣いていたとき、あの光を見た。いや、そのときは星だと思っていた。緑色に光って俺を慰めてくれているみたいだった。次の日の夜。その星を探したけれど、見つからなかった。その日から俺は熱心に空を見上げるようになった。でも、それからは一度もその星を見ることはなかった。そして、時がたつとともに忘れ去られていった。
 そしてその星が、今俺の目の前に在る。九年前と変わらず、緑の光を放って・・・・・・。
・・・え?・・・きお・・・く・・・?・・・!昔のこと・・・。そう思った瞬間、記憶の波が押し寄せてきた。父さん、母さん、友達。皆の顔が浮かぶ。そして知らない間に涙が頬を伝う。
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