一柳和受難シリーズ

□ずっと、いっしょ、
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 夜の闇。
 真っ暗で吸い込まれそうでどこか恐ろしげなのに、その中にいるといつのまにか自分もその闇の一部になったきがしてしまう。

 僕は窓の外を見てる。

 こんなにも『ザァザァ』と音が響いているのに、何も見えなくて。
 ただそこは一面の黒い海のよう。

 それでもさっき迄は、近くの電灯が光を放ち、その輝きに絶え間なく走る黒い線で一応認識出来ていたのに…。

「人間って光が無いと何も見えないんだなぁ…」

 ポツリと言った当たり前すぎるその言葉は、雨の奏でる音よりも小さくて、ますますこの果てない暗闇から抜け出せない気がした。

 手に持った携帯をぎゅっと握る。




 あの事件から1ヶ月半…。

 確かに幾度となく雨は降ったけど、『ぱらぱら』と弱くて直ぐに止んでしまうような通り雨に近いものばかりだった。

 だけどこのオカシイくらいに激しい雨が昨日から降り始めて……事件以来初めて、降る雨があの館に響いていた雨音と被った。
 鉛色の重たく厚い雲の層を見上げて、知らぬ間に心が不安定になっているらしい自分に気づく。
 でも、『今はもう自分は帰ってこれていて、あの館にいる訳じゃないんだから』と苦笑しながら勝手に湧こうとする想いを押し込めた。
 そう、大丈夫だと思っていたんだ。次の日の朝までは。

 今日。起床した僕は直ぐに異変に気付いた。
 ちゃんと寝たはずなのに、全然寝たようにない…。
 それどころか、雨音が寝ている間に耳の近くで絶えずしていた様な気がして、精神的に酷く疲れを感じた。

 それでも大学に行かなくちゃいけないので、重たい体と心を引きずって家を出る。
 こんな状態じゃ車に乗れないと判断して、公共機関を使った。

 途中、何度も何度もふとした瞬間に蘇ろうとするあの館の日々を…あの感覚を掻き消すために、ただただ必死に耳を塞いだ。

 なのに、どんなに塞いでも耳の内側で鳴り続ける雨音は止むことは無くて…大学に着く頃には僕はもう耳を塞ぐのをやめ、諦めていた。
 狂いそうになるほど頭に響くソレと共に1日を過ごし、課程が終了するなり大学を飛び出す。
 寝不足と耳鳴りによる今朝より増した精神的疲労でふらふらしながらも家に帰り…着くなり布団に倒れこんだ。

 大丈夫…大丈夫…。寝ればきっと、少しでも楽になる…。雨だって直ぐに止むよ。だって、ここはあの館じゃないんだから…

 遠退く意識は最後の一片まで、願いのようにそう唱えていたのを覚えている。けど…




 夢の中で僕はあの館にいた。
 気付いたら日織からもらった見取り図片手に館の中を彷徨っていて…静奈ちゃんに呼び止められて連れていかれて…

 …まだらいさん…

 今でも鮮明に思い出せるあの惨たらしい最期。
 見た瞬間に、記憶の通り悲鳴を上げたから夢から抜け出せた。

 眼鏡をかけて時計を見ると、まだ時刻は夜になったばかりだったけど…もう寝る気なんて欠片も起きなかった。
 今寝たらあの夢の…いや、あの日の続きを見ることになる。
 無性にそんな気がしてならなかった。
 だって、雨は止んでないのだから…




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