キリ番

□あるひとつの幸福論
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「ふふ…楽しそうだね」

「だろ?エアリスと一緒なら、もっと楽しくなると思うんだ」

「なにそれ」



言いながらも、エアリスは楽しそうに笑う。
写真を眺めるその表情に、僅かに浮かんだ戸惑いの色。



「…空、恐い?」



尋ねれば、ぱっと顔を上げて、何かを言おうとしたままエアリスは口ごもった。
きっと、まだ抵抗が強いのだろう。
切り取られた青と、地平線まで続く蒼は違うものだから。



「…わたし…」

「いいんだ、無理しなくて。でもさ」



机の上で重ねられた、白い指先。
細いその指を包むように、ぎゅっと握って。



「いつか、エアリスがいっぱいの空を見たいと思えたら、その時は俺がそばに居るから」



こうして、手を繋いでいるから。
笑顔のままそう告げれば、エアリスは何度か瞬きをして、ふっと俯いた。



「エアリス?」



何か気に障ることでも言ったかと、自分の発言を思い出してみる。
けれど、どこが悪かったのかもわからなくて。
どうしようかと眉間に皺を寄せていれば、エアリスはぱっと顔を上げる。
浮かんでいたのは、満面の笑み。



「今の、すごく嬉しかった」

「ぇ、ほんと?」

「うん」



にこりと微笑むエアリスの表情は、本当に嬉しそうで。
白い指を両手で握りなおし、机に肘をつく。



「じゃ、今度デート雑誌でも買ってこようか?ゴールドソーサーおすすめデートコース、みたいな」

「ザックス、気、早い」

「あ、やっぱり?」



顔を見合わせて、笑い合う。
エアリスは、義理の母親と二人暮らしなのだと聞いた。
義理の、という部分は、シスネ達伝いに聞いた話だから、エアリスには伝えていないけれど。
仲のいい母子ということは、エアリスの様子からわかる。
ただ、一人娘のエアリスを、そう簡単に何日も外泊させてはくれないだろうな、と考えて溜息を吐いた。
エアリスも俺も、年頃なわけだ。
母親が心配するのも、当然で。



「まずは、エアリスの母ちゃんに頼まないとな」

「お花の世話?」

「あぁ…うん、それもだな」



なんとなくズレたことを言うエアリスに、笑みが零れる。
今はこうして手を繋いで、笑い合うだけでいい。
この幼い関係が、何よりも心地良いんだ。



「ね、ザックス」



狭い机の上、少しだけ身を乗り出したエアリスの、ふわりと香るシャンプーのにおい。
何だか照れくさくて、隠すように笑顔を浮かべる。



「なに?」

「わたし、ザックスとこういう話してるとき、すごく楽しい」



エアリスの言葉は、いつも素直だ。
上辺だけの飾り立てた言葉ではなく、気持ちを直に表すような。
嬉しさに、にやけた口元を片手で覆う。
一度大きく深呼吸をして、小首を傾げるエアリスに、素直な気持ちを告げた。



「俺も、すごく楽しい」



楽しいことや、辛いこと。
嬉しいことも、悲しいことも。
二人で過ごせたなら、きっと何よりも大切な思い出になるだろう。
みんなには子供っぽいと言われるかもしれないけれど。
きっと、これもひとつの幸せのかたちで。
いつかの未来の話に心を躍らせて、照れ隠しに笑い合う。
今の俺たちには、この関係がちょうどいいんだ。










  END...




+++++++++++

まずはちえなさま、リクエストありがとうございましたそしてすみませんでしたorz(先に謝る戦法が定着してきたようです
ちゃんとリク内容に…沿えてますか…!?(沿えてません
どの辺が甘いのかわかりませんね!orz
せっかくの素敵リクをこんなのにしてしまってすみません…!
書き直しなどいつでも承りますので!
それでは、改めましてリクエストありがとうございましたv


2008.8.13


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