キリ番

□あるひとつの幸福論
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歩き慣れた街、見慣れた風景。
初めてスラムに来たときは、ずいぶんと物が多い雑多な街だと思っていたけれど。



「エアリス!」



襤褸い教会の扉を開き、しゃがんで花の世話をしているエアリスに声を掛ける。
立ち上がり、振り返って。
浮かべた、微笑み。



「ザックス、おかえりなさい」


くすくすと笑うエアリスに、何度か瞬きをして。



「…ただいま。」



照れ笑いを浮かべながら、答えた。
古びた机の上に荷物を広げ、土産物屋で買ったポストカードを取り出す。
かわいい女の子へのプレゼントなんだと店主に話せば、それならとピンク色の袋にポストカードを入れ、花柄のシールで封をしてくれた。
エアリスの喜ぶ顔が見たくて、買った五枚の写真。
バックパックから袋を取り出し、エアリスの前に差し出す。



「おみやげ」

「ほんと?ありがとう」



ふわりと微笑み、両手で受け取った。



「開けてみろよ」

「うん」



エアリスに声を掛け、そっと封を開ける姿を眺める。
きっと、今の俺、顔がにやけてると思うんだ。
だって、エアリスって、本当に可愛いから。
封をしていたシールを見てかわいい、と声を漏らすところも。
ずっと結んでくれてる、よく似合ったピンクのリボンも。



「わぁ…」



エアリスはポストカードを取り出すと、感嘆の声を漏らした。
一回り小さな手の中で、広げて見比べながら。



「どう?きれいだろ」

「うん…ザックス、ほんと、ありがとう」



広い空を知らない少女が、本当に幸せそうに笑うから。
その顔を見るだけで、なんだか幸せな気分になってくる。
傍らの古い机にポストカードを並べながら、エアリスは壊れかけの椅子に腰を下ろす。
手招きをされて、向かい合うように椅子に座った。



「ね、ここ、どこなの?」

「ここ?コレルの東だな。海の向こうの大陸だよ」

「ふぅん…」



写真を交互に見回しながら、これは何だ、どこの写真なのかと尋ねるエアリス。
生まれた時からプレートの下で、狭い世界で暮らしてきたエアリスの瞳に、外の世界はどう映っているのだろう。
写真の中の空は、恐くないと言う。
空色の瞳も、同じだ。
けれど、教会の隙間から覗く空は、今でもエアリスにとっては恐いものに変わりないのだろうか。



「あっちの大陸に、でっかい遊園地があるんだよ。ほら、この写真のここ、写ってるだろ?ゴールドソーサーって言ってさ、デートスポットらしいんだ。俺は行ったことないんだけど」

「そこ、この前テレビで見たよ。ぬいぐるみ、占い、してくれるんだよね?」

「そうそう!そこでさ、夜にやってるイベントがあって…」



恋人達が訪れる夜。
百組目のカップルに選ばれた二人には、幸せな未来が待っていると。
ありがちな謳い文句だったけれど、惹かれることには間違いない。
いつかエアリスと二人で行けたら、なんて思いながら。
それでも、言葉を交わして笑い合うだけで幸せなんだ。





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