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□二十億分の一の鼓動
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繋いだ指。
並んで座り、絡めるだけ。
会話のひとつもなく、ただ、静かに流れる時間。
それでも幸せなのだろうか。
瞼を伏せたザックスの表情は、穏やかで。



「ザックス」

「ん?」

「…好きだ」



存外に、小さく。
告げた声は、情けなくも掠れていた。
心の底から、人を好きになったのも。
触れ合いたい、側に居たいと思えるのも。
ザックスが、初めてだった。



「セフィロス、知ってるか?心臓って、一生に動く回数、決まってるらしいぜ」



唐突な話題に、ぴくりと眉を動かす。
以前、何かの本で目にした記憶がある。



「…二十億回、だったか?」

「なんだ、知ってるのか」

「それがどうしたんだ」



尋ねれば、にこにこと幸せそうな笑みを崩さずに。



「俺、セフィロスと一緒に居ると、早死にしそう」

「…縁起でもないことを」

「だってさ、セフィロスの側に居ると、すごい、どきどきするんだ」



笑いながら、腕にしがみつくザックス。
伝わる鼓動は、速い。



「でも、ずっとこうしてたいから」



抱きつかれ、その表情は見えない。
二十億回の、何度目の拍動なのだろう。
気の遠くなるような数字。
その数字に、確かな根拠はひとつもないと言うけれど。
それでも否定し切れないのは。



「…ザックス」



肩を掴み、体を引き離す。
驚いたような顔をするザックスの、頬を撫でる。
擽ったそうに、微笑む表情。
言葉に表すことができないほどに、激しい感情。
醜い独占欲に、支配される心。



「なんだよ?」



硝子玉のような、空色の瞳。
細められた光彩に、浮かぶのは幸せの色。



「…愛してる」



頬を包み込み、触れるだけの口付けをする。
どうすれば、ザックスに伝えることができるのだろうか。
幼く、激しく。
甘く、毒を持つこの感情を。



「…なんか、感激」

「…は?」

「セフィロスがそんなこと言うの、初めて聞いたから」



くすくすと笑いながら、嬉しそうに、ザックスはぎゅっと抱きついてきた。





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