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□シアワセノオト
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クラウドと過ごす時間は、そりゃあ楽しい。
何を話すこともなく隣に座っているだけでも、幸せに思えるくらい。
俺は楽しいけど、クラウドはどう思ってるんだろう。
重役様の護衛任務の後、ミッドガルに向かう車の中で考えていたこと。
いつも、俺がクラウドの腕を引いてばっかりで。
クラウドの口から、何をしたいとか、どこに行きたいとか、そういった言葉を聞いたことがないんだ。
最初の頃は、照れたような顔をして頷くクラウドに、慣れてないんだと思っていたけど。
最近は、本当は迷惑がってるんじゃないか、なんて思えてきてしまう。
どうしても、今日は一緒に過ごしたかった。
それ以上は望まない。
ほんの短い時間だっていい。
手を繋いで、一言「好き」と、そう言ってくれるだけでいいんだ。
チャイムを押すことに、躊躇いを感じる。
やけに早く目が覚めてしまって、土産代わりに売店でデザートを二つ、買ってきた。
ビニール袋の底に、熱を奪った水滴が零れる。
慌しい物音が聞こえるから、クラウドはもう目を覚ましているだろう。
せっかくの休みなのに、悪いことしたな。
思いながら、ドアに背を預けた。



「…ふぅ」



曇った空を仰いで、息を吐く。
俺はいつも、から回りしてばっかりだ。
俺の方が年上だから。
兄貴ぶりたくて、でも、少しだけ甘えてもいたくて。
まだ田舎っ気が抜けないところが、故郷の懐かしさを思い出させてくれる。
誰よりも一番好きな、クラウド。
本当は、いつだって一緒に居たいんだ。

がちゃり。
ノブを回す音が聞こえたと同時に、勢いよく押し開けられた扉。



「うわっ!?」

「わっ!?ぁ、ザックス!」



慌てた様子のクラウドが、握っているのは札とキャッシュカードがはみ出た財布。
そんな持ち方してたら悪い奴に狙われるぞ、とか、寝癖も直さずにどこに行こうとしてたのか、とか、色々思ったけど。



「ぉ、おはよ」



いつもと同じ、照れたような笑いを浮かべたクラウドに、自然と頬が弛んだ。



「おはよ。悪いな、こんな朝から来ちゃってさ」

「いいんだ、俺が寝坊しただけだから」

「で、慌ててどこ行こうとしてたんだ?」




跳ねた金色の毛を摘みながら言えば、クラウドは何度か瞬きをして。
拗ねたように、俯いた。



「…ぁ、あのさ」

「あんたさ…今日、誕生日だろ?俺、昨日まで宿営地に居て、プレゼント買ってこれなかったから…」



急いで何か用意しようと、慌てて部屋を片付けて飛び出してきたのだと。
そう言ったクラウドに、嬉しさがこみ上げて。



「クラウドっ…」



思い切り抱き付いて、肩に顔を埋めた。
やばい、ちょっと泣きそう。
あんまりに嬉しかったから。
だって、クラウドが俺の誕生日、覚えてくれてるなんて思わなかった。



「…何、泣いてるんだよ」

「泣いてなんか…」

「泣いてる」



頬を撫でながら、少しだけ困ったような顔をして笑うクラウド。
情けないな、俺。
こんなんだから、クラウドにこんな顔、させちゃうんだ。



「ほら、上がってよ」



ぽんぽんと背中を撫でてた腕が、ぎゅっと俺の手を握って。
初めて引かれた腕に、少しだけ戸惑いを覚えた。






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