キリ番

□ミッション00
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「子犬、でかした」

「…子犬?」

「お前が動いたお陰で、今日の勝者はジェネシスだ」



ジェネシスとアンジールに口々に言われ、眉を顰める。
勝ち負けの基準がわからないんですけど。
…っていうか。



「子犬って、俺か!?」

「お前以外に誰が居るんだ」

「よく吠える」

「ぴったりだろう」



何で誇らしげに言うんだよ、アンジール。
何でそんな話するんだよ。
よりにもよって、英雄とドSに。



「犬ってさぁ…犬……」

「子犬だ、成犬じゃないぞ」

「追い打ちかけるなよ!」



泣きそうだ。
まさか憧れの1stに犬扱いされるとは思ってなかった。
ガキ扱いは、されたくはないけど、仕方ないとも思える。
でも、でもだなぁ!



「犬はないだろ、犬は…!」



泣きそうだ。
リアルに泣きそうだ。
セフィロスだって、何か言ってくれればいいのに。
俺のこと愛してるとか言いながら、犬扱いしてたのかよ!



「的が動いたんだ、今のはノーカウントだろう」

「アクシデントも想定した上で、正確な動作を要求されるのがソルジャークラス1st…いや、英雄としては当然じゃないのか?」



勝ち誇ったような笑みを浮かべるジェネシスに、言いくるめられて眉を寄せるセフィロス。
犬の話の方が重要な俺をほっといて、まだ勝ち負けの話をしてる二人。
何でアンジールは平気なんだ。



「当然子犬にもペナルティはある、安心しろ」

「俺もあるのかよ!」

「当然だ。勝者は敗者に一つだけ、何でも言うことを聞かせられるんだ」

「有効期限は日付が変わるまでだ、安心しろ」



いやだから、安心できないってば!
こいつらの、特にジェネシスの考える命令なんて、ロクなもんじゃないに決まってる。



「この間は散々な目に遭わされたからな…覚悟しろよ」

「この間?」

「ジェネシスが最下位だったとき、一日中お茶汲み係をさせられていたんだ」



そういえば、少し前に、すごくイライラした顔のジェネシスが、セフィロスの執務室に茶を運んできたことがあった。



「そうだな…セフィロス。お前は今日一日、ツインテールにしろ」

「…それは、あんまりじゃないか?」

「良い気味だ」



ドSだ。
この人、間違いなくドSだ。
確か今日は、午後から、一昨日あった検診に参加しなかった奴等の再検診があるとか聞いた。
セフィロスは一昨日、任務に行ってたから。
ツインテールで、あの宝条博士の居る検診室に行かなきゃいけないってことだ。



「…子犬」

「はいっ?…って、犬じゃ…!」

「お前には今から、神羅の全部署に挨拶回りをしてもらう」



何の話だろう。
挨拶回りって、今更要ることか?



「挨拶は『こんにちは、神羅カンパニーのみなさん。俺、ザックス・フェアは男の子が大好きです』だ」

「ちょっと待て!」

「どうした?本当のことだろう」

「ホントのことじゃない!俺はセフィロス以外の男には――…」

「もう一度聞きたいならプラスでもう一言」

「違う!セフィロスと比べて俺、リスクが高すぎないか!?」



やばい、涙で目がかすむ。
泣いちゃダメだ、俺!



「そうか?」

「そうだよ!」

「お前はまだ冗談で済む可能性が高い。だが、アレは真性だと思われるだろうよ」



ジェネシスが指さした先。
アンジールによって、ツインテール化されてるセフィロス。
あぁ、確かにアレはやばい。
どっからどう見ても真性だ。
可愛い気もしてきた。
うん、可愛いよ、セフィロス。
でも、英雄様の泣きそうな顔なんて、初めて見たな。



「ちゃんと覚えたか?神羅の駄犬、ザックス・フェアは――…」

「い、行ってきます!」



走った。
全力で走った。
背中で『後で監視カメラでチェックするから、誤魔化しても無駄だぞ』って声が聞こえたような気もするけど、きっとアレは幻聴だ。
幻聴に決まってる。



「駄犬!返事は」

「わ、わかりました!」



あぁ、俺は何て馬鹿なんだろう。
今日に限って、トレーニングルームなんかでスクワットやろうと思わなけりゃよかったんだ。
いつもみたいにソルジャーフロアで外でも眺めながらスクワットしてればよかったんだ。
どうか、口うるさい同僚が居ませんように。
思いながら、ブリーフィングルームのドアを開いた。







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