キリ番

□相は逢いにて愛と為る
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愛かと言えば、恋だと思う。
故意かと言えば、偶然だろう。
元々、女が好きだと公言している者同士だ。
間違っても、故意にそんな関係にもつれ込むはずはなかった。
なかった、はずなんだ。






















相は逢いにて愛と為る























「レーノー」



だらだらと、ベッドの上を転がるザックス。
まるで自分の部屋だとばかりに寛いでいる。



「服、着ろ」

「やだよ、エアコン利くまで暑いし」

「俺様のベッドを占領していいのは、本来ならな、俺のコイビトだけなんだぞ、と」



あの日から関係が変わったかと言えば、それは皆無に等しく。
ザックスは相も変わらず、飲んだ帰りにこの部屋に来ては、入り浸って介護を要求する。
寝ても覚めても、あの日のことに触れる様子は一度もない。
ザックスにとっては、やはり、一時の気の迷いだったのかもしれない。
それでも、まだ。
あの日に触れた肌の感触が。
耳を濡らす声が、消えないのだ。



「な、レノ…」



やけに、弱い声。
今度は頭痛でもし始めたのだろうか。
酒にそう強くもないくせに、女に勧められれば、断る術を知らないザックスだから。
いつも、二日酔いに悩まされているのだ。



「馬鹿、お前はいちいち飲み過ぎなんだよ、と……」



溜息混じりに言いながら、振り返れば。
相当気分が悪いのか、目尻に涙を浮かべながら、ベッドに伏せていた。



「おい、そこで吐くなよ、と」

「……ちがう」



小さい声。
それでも、はっきりと聞き取れた。



「は?じゃ、頭痛か?」

「……も、帰る…」



脱ぎ散らかした服に腕を伸ばし、気怠そうな体を起こして服に袖を通す。
ふらふらと立ち上がれば、すぐに近くのテーブルに手を付いて。



「おい、無理すんなよ、と」

「うっせ…レノのアホ…」



言いながら、へたりと座り込むザックス。
かなり、具合が悪いように見える。
少し前に与えた酔いさましは、まだ効いていないのだろうか。



「ザックス」



声を掛けて腕を伸ばせば、軽く払い除けられた。



「おい」

「触んな、って」

「そんな調子じゃ、家なんて帰れないだろ、と」



膝を折り、その表情を覗き込めば。
唇を噛んで、溢れそうなくらいに涙を溜めて。
具合が悪いわけではないのだと、分かった。
だが、どうしてこんな表情をする?
理由が、見当たらない。



「…とりあえず、横になれよ、と」



半ば引き摺る様に、ザックスの体をベッドに横たえる。
視線を逸らしながら、ぎゅ、と布団の端を握る指。
あの日、縋ってきた指と、重ねてしまう。
どこか気まずくて、顔を逸らした。



「……ザックス」



惹かれていると気づいたのは、いつのことだったか。
ただ、あの日と決定的に違うのは。
あれ以来、酒の量が増えたらしいこと。
そして、いくら酔っても、甘えてくることがなくなった。
変わらず訪ねては来るものの、やはり居心地の悪さがあるのだろうか。
風呂にも入れてやるし、必要なら着替えだって手伝ってやる。
それでも、前のようにぴたりと寄り添ってくるようなことはなくなった。





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