No.6

□愛し方を教えて下さい。
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愛し方を教えて下さい。



※残虐描写あり。閲覧注意。













警報が鳴った。頭の片隅にある、或る警鐘で。つまりはもう歯止めが利かない。警報とは名ばかりで、既にその存在は俺にも奴にも意味をなしていない。聞いた後に逃げられなければ、音など発した所でどうしようも無いというのに。
手を伸ばした。綺麗に光る紫苑の白髪。艶めくそれは、しかし今は俺の手により乱され輝かない。それにしたって何て綺麗な髪。掴んだ髪の束を力の限り引っ張った。空いている片手は彼の肩を掴み動かないように固定。俯き、紫苑は呻く。痛みと何より悲しみのため。ぞくりとした喜びが爪先から流れこみ俺は笑った。痛みを感じるというのはつまり、俺の存在が紫苑に影響しているということ。指は痛みを与え唇は快楽を与え。何て幸せなんでしょう、俺は!
髪は指にまとわりついて持ち主から離れた。どうやら数本、抜けたらしい。ふぅん、綺麗なのに勿体ないと俺は嘯く。額からは血が緩やかに流れ出していた。嗚呼、此処も俺が殴ったのだったか。冷え切った頭の隅で誰かがそう言った。
最早奴の体は赤か青。赤は自らの血液が吹き出し、青は血液を求めて。
髪を弄るのももう飽いた。では次はどこに触れるか。こいつの体で俺か触れていない部位などあってはならない。そうだろう紫苑?四つん這いに床に倒れこんでいる彼を見下ろした。吐血か、それとも吐しゃ物か、荒い息をし口元を拭っている。視線に気付いたのか口を開く。何とも怯えた表情で。
「…ネ…ズミ……どうし……」
どうして。どうやら其れが言いたいらしい。だがしかし荒い息に咳き込み続きが紡げない。吐き気と痛みをこらえたまま 彼は目だけでそれを訴えた。
どうして。どうしてだ、ネズミ。どうしてこんな事を―……

ふ。

鼻で笑った。嘲笑、嘲った笑い。見下し、思った。
どうして、だって?どうして。どうして。どうしてどうしてどうしてどうして。
「そんなもん――」

分かり切ってるじゃねぇか。

ゆっくりと跪く。床はやはり冷たい堅い。こんな所に倒れたままじゃ、痛いし辛いだろう。そう思い紫苑を優しく抱え上げた。両手で肩を持ち上げ、そのまま胸の中に頭を押し付る。紫苑は少し怯えたものの、それでも安堵したのか、ふっと息をつき目を瞑った。暖かかった。血の匂いはしたが、兎に角、生きている事は間違いない。
何て幸せな一時。なぁ紫苑大好きだ。もう何もかもどうでもいい。ずっと二人でこうして――

どうして。

やはり紫苑は呟いた。何度も何度も。

どうしてだ。君はあの日あんなに優しかったじゃないか。あんなに僕を大切にしてくれたじゃないか。なのにどうして。どうして。どうしてなんだよネズミ。どうして。

嘆息を一つついた。幸せが逃げていった。――分からないのか。
「そんなもん――」
お前が好きだからに決まってる。

ぐっと胸の中の頭を押し付けた。

「――!?」
白髪の少年は狂ったように手足をばたつかせた。息が出来ないらしい、どうも。奴は俺の腹を叩きだした。顔と胸との空間を広げ少しでも空気を吸おうとする。いやはや、そんなに照れる事も無いでしょう陛下。あなたは俺に抱かれてさえいればいいのですから。

やがて手足の動きは止まり、紫苑の体中の血液はひいていった。
「――おや」呟いた声は部屋に全く響かなかった。
今一度ぎゅっと抱き締めて、その後ようやく彼の体を離した。仰向けに横たえて心臓を確認すると、何てことだ、神よ、まだ彼は生きているじゃないか!
素早く頭を持ち上げる。彼の口元に寄り、唇を自らのそれで被い空気を送った。
そう言えば誰かが言っていたか。人工呼吸はどこかネクロフィリア的な要素があると。しかし、今はペドの謗りを受けずに快楽を貪るチャンスとか、何とか。

詰まらない思考に詰まらない行動。ほら紫苑早く起きろ。お前が死んでどうするんだ。

すぐに彼は覚醒した。ぱちと目を開けこちらを見ると、すぐさま体を起こして後ずさる、見開いた目で怯えたように。壁にぶつかり行き止まると、彼は囁いた。「助けて」
助けて?可笑しいな。随分滑稽な話だ、それは。お前が求めるべきは救済でなく憐憫だ。喜べよ、お前の痛みは俺の愛!
なお首を振り続ける彼はどうしても俺に触れようとはしない。照れか、それとも愛情の表現方法を知らないのか。ならばそう言えばいいだけの話。聞いてみた。「お前はどうしてそんなに照れてるんだ?好きなら好きだと言えばいいだろ」
再度彼は首を振る。俺は軽やかに嘆息をついた。何てことだ。
嗚呼神よ!どういうことか、彼は愛情表現が苦手のようです!お願いしますから、彼に人の愛し方を教えてやって下さい!
赤い蛇の踊る白い首筋に俺の細い手を軽く添え、蛇行跡に強く接吻し俺は首を握り締めた。



愛し方を教えて下さい。



end……………………………………………………



猛省します。

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