10/25の日記

21:59
新入社員・一護の受難
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「間違って届いた商品だが……別に、私は買ってもいいよ」

現実逃避に走る一護を現実に戻したのは、一人で延々と一護への愛を語っていた藍染の言葉だった。
それに、一護は戸惑いつつも嫌な予感に背筋を強ばらせ、口端を引きつらせる。

一護のミスは数千円ではあるものの、確かな不利益を会社に与える。
自社で消費しようとも自社は緑茶派であり、珈琲のストックは「風味が落ちる」と嫌煙されるだけだ。
尤も、一護本人が淹れれば問題などないが、本人はその事実を知らない。

よって、藍染の発言は有り難い。

のだが。

「……(悪寒が)」(汗)
「どうかしたかい?」
「え?あ、いえ……」
問われ、一護はまさか「あんたの発言に悪寒が走りました」等と言う訳にはいかず、言葉に詰まった。
一護が黙っているのをいい事に、藍染は薄ら寒い「一護への愛」とやらを語り出す。

おやまだ電話が遅かった事を怒っているのかい?そう拗ねずとも私は君が最優先だよ君の為なら私は全世界を制して悠久なる至福と私の愛を君に捧げると誓うよ……

飽きる事なく延々と、更には妄想が入り始めたようだ。
いっている事がおかしい。
が、突っ込んだら余計に面倒且つ大変な事になるという確信が一護の全身を貫き、結果無言の侭一護は藍染の言葉に鳥肌を立てる。

私はメーカーには拘るのだがね君が頼んでくれた物なら喜んで飲むよ否寧ろ君が淹れてくれたなら私は珈琲と共に至福と歓びを味わう事が出来るのだけれど、

「……どうしました?」
藍染の言葉が不自然に途切れた。
瞬間、一護の本能が喧しく警報を鳴らす。
それでもいい加減黙っている訳にもいかず、嫌々ながらに言葉をかける。
が、次いで受話器から響いた、無駄に爽やか且つ穏やかさの中に明らかな欲望をはらませた声音に、一護は耐え難い拒絶反応に全身を震わせた。

「そうだね。お詫びとして、私専用の秘書(つま)になって貰おう」
間違った商品を買うのだし、構わないよね。

キラキラと、いっそ電話越しであるにも関わらずに感じ取れる藍染の言葉に、一護の意識が遠のきかける。

待てよ、確かに間違えたのは俺で買ってくれるのは助かる。けどな、だからって何で俺が入社して一年も経ってない会社を辞めてあんたの秘書にならなきゃなんねぇんだよ。大体、秘書っつった癖に妻とか聞こえたんだが気の所為だよな?

受容範囲を超えた拒絶反応に、一護は自らの意識を保つ事に精一杯だった。


〜続く〜

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